
ケニアの首都ナイロビのスラム街の様子。たくさんの人が集い、活気にあふれている。
欧米のトピックが多いこのコラムだが、今回は珍しくアフリカから。先日ケニアの首都ナイロビに出張した。ある仕事で、ナイロビの視察に合わせ、マーケティングやセールスに携わるケニアの皆さんに戦略PRのワークショップを行ったのだ。ケニアは東アフリカの共和制国家。サバンナのイメージが強いかもしれないが、ナイロビは大きな都市だ。ここ数年は中国が積極的に投資している。
PRといえばまずメディアが欠かせないが、ナイロビ最大のメディアはズバリ「口コミ」だろう。もちろん、テレビやラジオ、新聞、雑誌もある。月収が日本円にして3万円程度の、いわゆる中流家庭のお宅にお邪魔すると、リビングルームには小さなブラウン管のテレビが置いてある。通勤のバスではラジオも聞くらしい。しかし、そうしたメディア接点はまだまだ限定的だ。
一方で、スラムの情報量はすごい。ナイロビの人口約470万人のうち、スラムの住人は実に100万人。大規模に広がるスラムに「貧困」の印象はなく、人々はおしゃれをして笑顔で教会に行く。そして、圧倒的な密度で、人と人が直接会話をしている。まさに、「人がメディア」とはこのことだ。
さらに面白いのは、そこにインターネットやSNSも介在してくることだ。スラムでも携帯を持つことは当たり前。富裕層はスマホやFacebookを使いこなしている。これまでの「後進国」や「先進国」のイメージでは捉えきれない、とてもユニークなメディア環境なのだ。
また、戦略PR発想に大事なことに、「社会の関心」をどう捉えるかがある。その点では、現在のケニアでは「健康」と「家族」が大きな関心ごとのようだ。「健康」は高齢化を迎える日本でも大きな関心ごとだが、ケニアのそれはもう少し"素朴な欲望"に思える。生涯にわたる健康ではなく、ヘルスケアにかかるコストや病気の予防など、「毎日の生活の安心を得たい」というインサイトを垣間見ることができる。
そして、「家族」のあり方も変化しつつある。東アフリカではまだ男尊女卑の考えが根強いものの、働く女性も増えている。驚いたのは、シングルマザーやシングルファザーの多さだ。新しい時代を迎え、多様な家族のあり方が模索されているように思える。
マーベル・スタジオの映画『ブラックパンサー』が2018年にヒットして、いわゆる「アフロ・フューチャリズム」が注目された。アフリカ固有の歴史や文化とテクノロジーが融合した、未来のアフリカの世界観だ。
社会の大きな変換期であり、密度の濃いリアルな口コミとSNSなどのメディアテクノロジーが融合するケニアは、PRの視点からもとても興味深い。アフリカのPRはこれから盛り上がるかもしれない。ではまた来月!
本田哲也(ほんだ・てつや)本田事務所代表/PRストラテジスト。PRWeek誌「世界でもっとも影響力のあるPRプロフェッショナル300人」に選出された日本を代表するPR専門家。『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などの著作、講演実績多数。海外での活動も多岐にわたり、世界最大の広告祭カンヌライオンズの公式スピーカーや審査員を務めている。 |
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