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クリエイティブ力で広報は強くなる

PRに求められるクリエイティブは「社会との合意を形成するための手段」

鈴木 曜(貝印 マーケティング本部 部長 兼 GREAT WORKS 東京・上海オフィス取締役)

メディアの多様化により、広報が制作するクリエイティブの種類も増えている。クリエイティブエージェンシーと事業会社の広報を経験してきた鈴木曜氏が、企業ブランドを体現するクリエイティブ制作のポイントを解説する。

確か、2009年だったと記憶している。広告の祭典、カンヌライオンズのカテゴリーに、「PR」が新設されたのである。当時、広告制作にどっぷり浸かっていた私は、事の重大さに気づきもせず、面白いアイデアの開発に没頭していたのだが、当時はまさか自分が広報を統括する立場になるなど夢にも思わず過ごしていた(過去に戻って自分に教えてあげたい)。

──あれから10年。PRとアドバタイジングの境界線の揺らぎ、ないしは崩壊を感じているPR担当の方も多いのではないだろうか。かく言う私も、クリエイティブエージェンシーで広告を創造しながら、一企業の広報担当として社会と向き合っているという、まさに境界線を行き来している身である。

実際、広報と宣伝、トラディショナルメディア(テレビや新聞)とウェブメディア、あらゆる境界線の定義は曖昧になっている。それを超えたところに課題解決の糸口があることも多くなっている。PRに従事する皆さんの中にも、「ユニークなアイデアや制作物で"トレンド"を創り出すことにチャレンジできる時代が到来したんだ」という実感があるかもしれない。

PRとクリエイティブの関係性

そもそも欧米とは違い、日本は「世間体」という見えない概念が支配している。そのためPRによる社会とのコンセンサス(合意)形成が、自社商品のパーセプションチェンジ(認識転換)に大いに寄与することは、従来から明白であった。

これまでは、世論を醸成していたテレビや新聞、一般紙や業界紙に好意的に取り上げられることで効果が得られていた。しかし、ここ10年間で急速にメディアは多様化(図1)。その影響で、自社メディアの運営やSNS上での企業対個人のインタラクティブな関係性の構築などもPRの業務領域となった。従来のPR業務だけでは、社会とのコンセンサス形成が十分にできなくなってきているのだ。つまり、世論の醸成方法が多様化しているということである。

    ❶世論の醸成方法の多様化
    自社メディアやSNSの運営もPRの業務領域に。

    ❷伝達表現の多彩化
    クリエイティブの自由度が増加。

    ❸表現のストック化
    情報がネット上に蓄積され、何度も再生されるように。

図1 メディアの多様化がPR業務にもたらした変化

メディアの多様化がもたらしたもうひとつの副産物が「伝達表現の多彩化」だ。デジタルの普及で、人々が常にオンライン環境に接続できる時代が到来した。企業メッセージの発信においては、文字数や時間制限といった形式にとらわれず、自由なクリエイティブで表現することが可能になり、状況に応じて最適なスタイルを選択できるようになった。

さらに、情報は流れ過ぎていくのではなくネット上に蓄積され、何度も再生されるという「表現のストック化」も進んでいる。2017年には、世界最大の動画共有サイト「YouTube」において、1日あたりの全人類の動画視聴時間の合計が10億時間を超えたという発表もあった。以前までは"特殊な技能"とされていた動画の制作は急速にコモディティ化され、様々な用途で使用が可能になったことも非常に大きなトピックだ。

つまり「世論の醸成方法の多様化」×「表現の多彩化とコモディティ化(特に動画)」。これがPRとクリエイティブの融合を促す背景ということができるだろう。

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