いま、日本でもコミュニケーション戦略の重要性が指摘されている。アメリカでコミュニケーション戦略の指南書として上梓された書籍を日本で出版するにあたり、翻訳に参加した駒橋恵子氏に話を聞いた。

アージェンティのコーポレート・コミュニケーション
ポール・A・アージェンティ/著
駒橋恵子、国枝智樹/監訳
東急エージェンシー 352ページ、2800円+税
市場競争に勝ち抜くために必要なコミュニケーション戦略を、グローバル企業による豊富な事例をもとに多角的に解説。米国で20年以上にわたるロングセラーに。本書はその第7版の邦訳で、SNSやガバナンス重視の時代の広報に対応した最新書である。
日本で求められる経営戦略
──今回、出版した翻訳書の特徴を教えてください。
経営戦略と連動した、首尾一貫性のあるコミュニケーション戦略の重要性を解説したのが本書です。日本のトヨタ、ソニーなどのほか、IBM、ナイキ、ヤフーなど100社以上の成功事例と失敗事例が挙げられており、ぜひビジネスパーソンに読んでほしい内容です。
著者であるポール・A・アージェンティ氏は米アイビーリーグのダートマス大学ビジネススクールの教授で、30年以上にわたって教鞭をとる傍ら、大手企業のコンサルティングも手がけています。米ビジネススクールは経営トップを育成する機関ですが、こうしたコミュニケーション戦略が授業科目となっているのです。
──近年は組織の透明性やコミュニケーションが重視されていますね。
昔はコミュニケーションを戦略的に考えなくても「黙ってついてこい」というリーダーシップや忖度が評価されたのでしょう。
しかし本書でも指摘されているように、市場環境は大きく変化しています。CSRを意識した環境や人権への対応、ガバナンスを意識した投資家への対応、そして従業員の働き方改革などについて、厳しい目が注がれています。しかもSNSが浸透し、すべてのステークホルダーが情報を一瞬で全世界に共有し合う時代です。同調圧力などによって隠ぺいした事実が発覚すると不祥事となりますし、謝罪会見では組織の不透明性が指摘され、社会常識に欠けた倫理観が追及されます。
そういう時代だからこそ、経営戦略と一体化した統合的なコミュニケーション戦略によって、透明性の高い組織を構築することが重要なのだと思います。本書では危機管理として、記者会見の失敗、トップがSNSでつぶやいた言葉での炎上など、コミュニケーション戦略の欠如によって企業が大打撃を受けた事例も多数挙げられています。
──翻訳で苦労された点は。
日本人の読者に分かりやすくすることです。文章は翻訳調にならないように、そして米国社会の専門用語を知らなくても読み進められるように言葉を選びました。特にCSRやIRについては、米国では反企業運動や法令など独特な事情があり、訳者として詳しい背景を調べながら簡潔な訳注を入れ、ビジネスパーソンが理解しやすいように意識しました。
──どういう人に読んでほしいですか。
広報・PRの関係者はもちろん、経営戦略とコミュニケーションに関心のあるすべての人に役に立つ本だと思います。現場で意思決定するとき、または上司や部下に意見を伝えるとき、本書は説得力のある理論と具体的な成功例・失敗例を提供してくれます。
日本も経営にコミュニケーション戦略が求められる時代に入り、広報・PRの専門家が一層重視されるようになるでしょう。その際に指南書として活用してほしいと思います。

東京経済大学
コミュニケーション学部 教授
駒橋恵子氏

ダートマス大学
タック・スクールオブビジネス 教授
ポール・A・アージェンティ氏
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