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本田哲也のGlobal Topics

カンヌライオンズPR部門審査の裏側

本田哲也

ドイツのThe Female Companyが行ったキャンペーン。

世界最大の広告祭、カンヌライオンズ。今年は6月17日から21日までの5日間開催され、全世界から3万953点の作品がエントリーされた。そのうちPR部門には1857点がエントリーされた。昨年と比べると12%減少となる。

さて、今回のコラムでは、PR部門の審査委員長を務めたミシェル・ハットン氏へのインタビューをお届けしよう。世界最大のPR会社、エデルマンのエグゼクティブであるミシェルとは、2年前のカンヌで審査を共にした仲間でもある。今年のトレンドや審査の裏側を聞いてみた。

「2年前の審査と今回ではいくつか違いを感じましたね。例えば、グローバルなPRキャンペーンが少なくなって、よりローカルな課題を解決しようというものが増えた印象です」。これはショートリストを見て僕も抱いた感想だ。ブランドや企業が、よりローカルに響く訴求にシフトしているように思える。「いわゆる"パーパス"(意義ある目的)が重要視されていることは変わりませんが、今年は、CSR的なアプローチではなく、ビジネス戦略そのものに沿ったものが多かったです」。

「今年の審査団が指針とした審査基準は以下の3つです。まず"Craft of PR"。PRデザイン思考で全体設計がなされているキャンペーンであること。次に"Human Truth"。人のインサイトをしっかり把握しているものです。最後に、"Measurable Impact"。PR露出に留まらず、ビジネスとして測定可能な成果があるものです」。このような基準で厳しく審査された結果、頂点に輝いたのがドイツのThe Female Companyによる「The Tampon Book」だ。

「今年のグランプリこそ、"Craft of PR"の代表格です。実にクリエイティブに設計されたパブリックアフェアーズのキャンペーンであり、目に見える変化を生み出しました」。ドイツでは生理用品の消費税率は19%なのに対して本は7%。この消費税格差問題を提起すべく、2人の女性起業家は本に付録としてタンポン15個をつけ「The Tampon Book」を売り出し、世論を喚起した。

「今年のカンヌは、PR業界にとって良いものだったと思います。もっとも、PR会社はもっともっとキャンペーン設計の中核を担うべく努力が必要ですね。PR発想による全体設計は、PR部門に限らずあらゆる部門で評価基準になっています。企業やブランドにとって、普遍的な要素になっていくでしょうね」。

世界はどんどん進んでいる。今年の日本勢は、80点のエントリーがあったもののショートリストにひとつも残らないという残念な結果となった。来年は挽回すべく、今年の仕事をがんばりましょう。ではまた来月!

本田哲也(ほんだ・てつや)

本田事務所代表/PRストラテジスト。PRWeek誌「世界でもっとも影響力のあるPRプロフェッショナル300人」に選出された日本を代表するPR専門家。『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などの著作、講演実績多数。海外での活動も多岐にわたり、世界最大の広告祭カンヌライオンズの公式スピーカーや審査員を務めている。

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