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メディア研究室訪問

学生の力でオリンピックを全力取材

明治大学 小田光康研究室

メディア研究などを行っている大学のゼミを訪問するこのコーナー。今回はオリンピック専門のウェブメディアを運営する小田光康ゼミにお邪魔しました。

取材当日の小田ゼミ。

DATA
設立 2013年
学生数 3年生13人、4年生12人
OB・OGの主な就職先 NHK、朝日新聞、スポーツニッポン、みずほ銀行、日本M&Aセンター、サントリー、ゆうちょ銀行、オリックス、JR東海、サイボウズ など

ライブドアニュースなどの元記者で、明治大学にて2013年からメディア言語論やコミュニケーションについて教鞭をとる小田光康先生。ゼミでは米ジョージア州アトランタに本社があるオリンピックニュース専門メディア「Around the Rings(ATR)」の日本版サイト「ATR Japan」を運営している。学生は実際にマスコミ記者と同じ土俵で取材し記事を書くなど、理論と実践の融合型のジャーナリズム教育を実施している。

学生目線を活かすメディアづくり

明治大学は過去にサッカーの長友佑都選手や卓球の水谷隼選手らを輩出するなど、スポーツ界との関わりが深い。スポーツ推薦枠も充実している。小田ゼミの学生も半数近くはラグビーやラクロスなど体育会運動部に所属しており、日ごろはプレーヤーとしても活躍している。

学生たちは、ATR Japanのサイトに載せる記事の選定から、取材・アンケート調査、写真撮影、原稿執筆、SNS運営まで主体的に取り組んでいる。大きくは「取材班」と「SNS運営班」に分かれており、個々のニュースに関しては、必要に応じてチームを組み、取材、制作を進める。

ゼミの現場を訪れると、執筆した記事をスクリーンに映し出し、ゼミ生全員で校正、ウェブサイトへの掲載作業の真っ最中。その後はSNS運営班からの報告をうけ、今後の改善策を議論していた。「英語の見出しをつけたらアクセス数が増えた」「それは属性分かっている?本当に因果関係あるの?」「サイトのリンクを明記するべきでは」と、活発に意見が飛び交った。司会進行も学生が主体となり、個々の課題をゼミ全体で解決していく。

特に「ATR Japan」の認知拡大は最大の目標で、通勤・通学時間に記事を掲載するタイミングを合わせるなど、多くの人に読まれるよう日々研究している。

1週間に1回のゼミの目標は「すぐ動けるようにすること」。具体的な目標、行動を共有することで、個々の進捗を管理するとともにサイトの効率的なブラッシュアップを図る。

ゼミ生は「全国紙に書かれていることは意外と難しい。このメディアをきっかけにしてオリンピック・パラリンピックについて興味を持ってくれる人が1人でも増えるように、学生目線で分かりやすく書くという点は意識している」と本メディアのあり方を設定している。

取材当日はOBもゼミに参加。この活動について、「学生が主体となってオリンピックを伝えるメディアは他にない。よりフラットな目線で世の中に目を向けることができるのはメディア運営の面白さ。小田先生からもアドバイスをもらいながら、伝わる記事づくりにこだわり続けているのが本サイトの最大の魅力だと思う」と話す。

2018年開催の平昌五輪を取材中のゼミ生と小田先生。五輪取材はIOCから発行される記者証が必要で、学生で付与されたのは小田ゼミの学生が初。

報道の現場で身につく行動力と思考力

「オリンピックの本番はたった2週間余り。しかしその前後に国を動かす政治や経済、社会の動きが存在する。学生たちにはオリンピック報道を通じて、メディア理解はもちろん、社会の問題とも深く向き合ってもらいたい」と小田先生は語る。

日々SNSやメール上で学生に記事やサイト運営、卒業論文についての助言を行っており、週1回のゼミは学生が日々の成果を共有、議論する場となっている。ゼミ生との距離が近く、卒業後も親交が続いているのは小田先生の人柄があってこそ。ゼミ生は口をそろえて小田先生を「父親のような存在」と語る。自身も山岳部出身で、今でも月に1回は登山をするほどスポーツが好き。その「何でもあきらめずに挑戦する」姿勢や熱血漢なところに惹かれてゼミに入った、という学生も多い。

「ジャーナリズム教育というと記事の書き方などのテクニカルな部分が強調されがちだが、物事に対する問題意識を高めて批判的に観察し、それを論理的に表現する力こそ必要。そのためのツールとしてATR Japanでの活動や運営は最適。学生にはこれらを通じて社会で生き抜く力を身につけてもらいたい」と話すなど、ジャーナリズム教育への熱い思いがうかがえた。

オリンピック専門メディア「ATR Japan」
2020年のオリンピック・パラリンピックについて、関連施設の建設に関する問題やボランティアに対するインタビュー記事などを掲載している。TwitterやInstagramとも連動。

現在も記者として活躍 理論と実践を融合させた教育

ATR本部のCEO兼編集長、エド・フーラ氏と共同通信社在籍中に親交を深めて以来、30年近くの付き合いがあるという小田先生。自身もアトランタ、長野、北京、平昌の各五輪など多数の国際スポーツ大会の現場を取材してきた。最近では「復興五輪(*)」に関する福島第一原子力発電所事故の被災地での検証取材などを行った。

2020年東京五輪・パラリンピック組織委員会が掲げる5大ビジョンのひとつ。五輪開催が東日本大震災からの復興の後押しとなるよう、被災地と連携した取り組みを進めている

大学でジャーナリズム教育を始めたきっかけは、国内では理論と実践を融合させた職業教育が未開発だと実感したこと。記者生活の中で、OJTがほとんどである現場に危機感を覚えた。ゼミでの活動を通して、学生たちにその実践の場を経験させることで、若者世代のメディアリテラシー向上を期待している。

小田光康(おだ・みつやす)准教授
東京大学大学院教育学研究科博士課程満期単位取得退学。米Deloitte Touche勤務中にジョージア州立大学でMBA取得。その後、共同通信、ロイター通信、ブルームバーグ・ニュースを経て、ライブドアでネット市民メディアPJニュースを運営。朝日新聞『AERA』を経て現職。著書に『パブリック・ジャーナリスト宣言。』(朝日新聞出版)、『実践 ジャーナリスト養成講座』(平凡社)など。

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