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本田哲也のGlobal Topics

PRワード設定の成功例 「生理の貧困」を失くせ!

本田哲也(本田事務所)

P&Gの生理用品ブランド「Always」が展開した寄付活動キャンペーン。出所/https://always.com/en-us

今回は、5月にロンドンで発表された「PRWeek Global Awards 2019」の受賞キャンペーンをご紹介しよう。世界有数の業界メディアである「PRWeeK」が主催するこのアワードは、セイバー賞とカンヌライオンズPR部門と並ぶ、世界3大PRアワードの一角だ。

そんな中で今年、「グローバルクリエイティブ部門」を含む合計3部門で受賞したのが、P&Gの生理用品ブランド「Always」が米国、英国、カナダを中心に展開した「#EndPeriod Poverty」キャンペーンだ。

Alwaysの調査によると、イギリスで全体の10分の1、カナダで7分の1、アメリカで5分の1にのぼる少女が、貧困などの理由のために生理用品が必要なだけ買えず、それが原因で体育などの授業を敬遠するようになるという。この時期の少女にとって、生理に健全に向き合えないことは自己肯定感や自信の喪失にもつながる。

そこでAlwaysは、各地のNPOと手を組んで、この問題の認知向上とAlwaysの生理用品を少女たちに寄付する活動を展開した。キャンペーンは、3月8日の国際女性デーと夏の終わりの新学期シーズンを中心に設定され、多くのメディア報道やインフルエンサーの巻き込みが実現。266の記事露出と816のインフルエンサー投稿を起点に、「period poverty(生理の貧困)」というワードが広がっていった。このムーブメントはイギリス政府をも動かし、ドネーション(寄付)は10億円を超え、ブランドの売上も21%向上した。

このキャンペーンは秀逸かつ世界中のお手本となる戦略PRだ。まず、「経済的問題で生理用品が買えない少女たちが先進国に大勢いる」という知られざるファクトをあぶり出したこと。この事実が、報道と口コミを促進させる。その背後には「先進国における貧困」という現代的な社会課題があるからだ。そしてそのことが、未来ある女の子たちの内面と能力(自己肯定感や運動能力)に影響を及ぼすのだという意味づけが、「Always」のブランドパーパス(ブランドの存在意義)に見事につながっている。

2015年にカンヌPR部門のグランプリを受賞した「#LikeAGirl」キャンペーン(女性が生理の始まりという体の変化のタイミングによって、自信をなくしてしまいがちである、という現象を変えようとした取り組み)でも知られるように、女性に対する固定観念や偏見をなくし、女性に自信を与えることがAlwaysの信念だ。

そして最後に、PR拡散の戦略として「period poverty(生理の貧困)」というワードを設定したことだろう。これがいわば社会記号的に機能することで、PRが統一感をもって広がった。PRワード設定の素晴らしい成功例だと言えるだろう。ではまた来月!



本田哲也(ほんだ・てつや)

本田事務所代表/PRストラテジスト。PRWeek誌「世界でもっとも影響力のあるPRプロフェッショナル300人」に選出された日本を代表するPR専門家。『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などの著作、講演実績多数。海外での活動も多岐にわたり、世界最大の広告祭カンヌライオンズの公式スピーカーや審査員を務めている。

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