
アメリカのスポーツ現場に学ぶマーケティング戦略
川上祐司/著 晃洋書房 244ページ、2500円+税
東京オリンピックやラグビーW杯の開催を控え、日本のスポーツ産業は盛り上がりを見せている。本書では「アメリカにはスポーツビジネスにおいて数多くの成功事例と先進事例がある。その経営やマーケティングから学ぶべき点が多い」との考えから、著者自身がアメリカに出向き、その展開例を収集。日本企業が参考にすべき事例を解説した。海外のスポーツマネジメントの現地レポートなど臨場感ある内容も含め、研究に留まらず実践に参考になる内容とした。
スポーツを社会のインフラに
著者の川上祐司氏は現在、帝京大学経済学部経営学科でスポーツマネジメントの研究に携わっているが、元々はアメリカンフットボールの選手だった。オンワード樫山の実業団でプレイヤーとして活躍していた経験があり、まさに企業スポーツの最前線とその変化を体感してきた立場でもある。のちに富士通の広報IR室と宣伝部でも10年にわたりスポーツプロモーションの現場を経験している。
そんな川上氏が主張するのは「日本のスポーツビジネスはあまりにもメディアが先導するケースが多い。市民が楽しむのではなく、単なるメディアのためのスポーツとなっているのでは」ということ。
そこでケーススタディとして参考にしたのが、アメリカのメジャーリーグの現場だ。川上氏はこれまで4シーズンにわたって、カリフォルニア州を本拠とするチーム「サンフランシスコ・ジャイアンツ」の春キャンプに研究と視察のために参加してきた。
そこで川上氏が目にしたのは、市民がスポーツを日常的に楽しんでいる光景だった。スタジアムの空間自体を楽しむ人々の姿であふれており、観戦だけでなく、ボランティアとして毎年キャンプ運営に参加するお年寄りなどの姿も多い。年代問わず市民の生活にスポーツが根付いていた。その仕組みづくりに、これからの日本のスポーツマーケティングのヒントがありそうだ。
「子どもたちからシニア層、体の不自由な方などすべての人が自発的に楽しめる空間を提供しており、自然と人が集まる仕組みができている現場を目の当たりにしました」。
マーケティングの難しさとは
そもそも、スポーツマーケティングと一般的なマーケティングの違いは何だろうか。「スポーツのコア製品は"試合"という無形のものであり、一般的な製品と違ってマーケティング担当者が制御することはできない。目的と手段を明確にすることが重要になる」と川上氏は指摘している。
日本では多くが広告を出すこと、チケットを売ることのみが目的となってしまっている。これらはあくまでマーケティングの一手段にすぎない。アメリカでは「新しい顧客を創り出すこと」や「社会課題の解決」を目的とし、スポーツ自体が社会に価値を提供できているのだ。「日本でもスポーツを社会のインフラとし、日常に不可欠な存在となる仕組みづくりが今後の課題になる」というのが川上氏の見方だ。
「健康経営」なども注目されつつある今、スポーツと企業の関わりは今後より密接となっていくだろう。川上氏は「広報は企業の要であり、企業と社会との接点でもある。本書がスポーツを切り口とした企業コミュニケーションを考える際のヒントになれば」と話している。

帝京大学
経済学部 経営学科(スポーツマネジメント)教授
川上祐司(かわかみ・ゆうじ)氏
1988年オンワード樫山入社。メンズ事業本部ポロ・ラルフローレンを担当。アメリカンフットボールの名門オンワードオークスに入部。1997年から富士通 広報IR室、マーケティング本部宣伝部を経て現職。専門はスポーツマネジメント、スポーツスポンサーシップ、アメリカスポーツビジネス。