
筆者近影。今後は既存のPR会社や広告会社との連携に加え、複業やフリーランス人材のネットワーク化によるサービスチーム編成をはかっていく。
このたび、創業以来13年近く務めたブルーカレント・ジャパンの代表を退任し、新会社「本田事務所」を始動させた。PR業界に20年いる身としては、ここ数年のPR市場の発展はめざましい。国内のPR業の市場規模は2007年の653億円から2017年には1016億円まで拡大。イベントやデジタル系のPR業務、行政広報などを加えた広義のPR領域市場を含めると、その規模は5000億円に迫ると推計される(日本パブリックリレーションズ協会調べ)。日本のPR市場はこれからも伸びるだろう。
今回始動する本田事務所では、「PR戦略」の立案機能に特化する。日本の広報PR領域では、まだまだ戦略と戦術の「ジレンマ」が存在する。戦略なきPR活動にも、画餅のPR戦略にも意味はないのだ。本田事務所の役割を例えるなら、「建築設計事務所」のようなもの。建築業界において、アーキテクトとしての設計事務所の役割は、基本設計、構造設計、工事監理だ。設計事務所が建設会社や工務店と一緒に仕事をすることで、素晴らしい建築物が完成する。
海外ではどうか。残念ながら、ここにはまだ大きな開きがあると言っていいだろう。『戦略PR』は、僕が10年前に刊行した書籍のタイトルだが、英語に直訳すると「Strategic PR」となる。
しかし、この言葉を聞いた英語圏のPRパーソンは、みなちょっと腹落ちしていないような顔をする。それもそのはず、英語の「PR=Public Relations」には、そもそも「Strategic(戦略的)」というニュアンスが含まれているから。「PRってそもそも戦略的なものでしょ?」という認識があるので、Strategic PRという言い方には違和感を覚えるというわけだ。このエピソードは、日本と海外のPRの違いを如実に表している。
もうひとつの圧倒的な違いが、人材の層の厚さと流動性だ。とりわけPRの本場アメリカでは、プロ人材の人口が日本とは比較にならない。そのキャリアバックグラウンドも、事業会社、PR会社、ジャーナリスト、政府系機関、NPOやNGOでの仕事を複数経験している猛者も珍しくない。その結果、独立事業者やフリーランスも多く、多様である。こうした流動性や多様性も、米国PR業界の強みでもあるわけだ。
「働き方改革」の後押しもあって、日本でも今後複業やフリーランスなど人材の大規模な流動化が起こるはずだ。とくにPRにおける専門性は属人的要素が強いから、流動化するプロ人材をフレキシブルに活用することが大事になってくる。これが、新しい会社ではPR戦略立案に特化し、その実行においては「フレキシブルチーミング」のシステムを採用する理由だ。
新会社のミッションは、「Powered By PR」と定めた。PRの力で、ビジネスや日本を底上げしていきたいと思っている。そしてもちろんこのコラムも続きます。ではまた来月!
本田哲也(ほんだ・てつや)本田事務所代表/PRストラテジスト。PRWeek誌「世界でもっとも影響力のあるPRプロフェッショナル300人」に選出された日本を代表するPR専門家。『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などの著作、講演実績多数。海外での活動も多岐にわたり、世界最大の広告祭カンヌライオンズでは、公式スピーカーや審査員を務めている。 |