兵庫県知事選「広報」の教訓とは?
PR会社の社長が兵庫県知事選挙の投開票日から3日後に、ネット上に「今回広報全般を任せていただいていた立場として」実際の広報活動を公表した。しかし、公職選挙法が定める選挙運動期間中の業務かボランティアかが不明確な活動内容の記載により、当選した斎藤知事の公職選挙法違反を問う声が広がり、PR会社社長の人物像まで報じられるなどSNSやメディアでの批判が過熱。混乱に発展した。
ブログや掲示板、ソーシャルメディアを起点とする炎上やトラブルへの対応について事例から学びます。
新年度がスタートした。SNSも含め新たな広報活動に取り組む組織も少なくないだろう。今回は、この春新たにSNS施策を始める、あるいは見直す際のポイントを考えてみたい。
Facebookなど主要なSNSが誕生して15年が経つ。活用が広がる中、SNS投稿に文書による事前の決裁が必要だと規定する組織文書がネット上に多数見られる。これらは運用の見直しで大きな改善が見込める代表例だ。
組織がアカウント開設にあたってよく使うのが「発信を強化する目的で」SNS活用を始めるという表現。投稿に決裁を求めるのはSNSを単なる発表の手段と見ているということである。責任の明確化と言えば通りは良いが、皮肉なもので、発信力アップを期待されつつも、その発信に時間も手間もかかる仕組みになっているのだ。
SNS運用では、目的と目標、そして運用の仕組みがちぐはぐになっていないかをしっかり確認したい。
よくある失敗は、最初にフォロワー数を目標に掲げることに始まる。「発信を強化する」期待を背負って野心的な数値を設定し、未達に終わる。あるいは仮に担当者が工夫して達成しても、あまり喜んでもらえない。理由は、その数値の「意味」を組織で評価できないからだ。組織内で評価が得られないと、次第にその目標は形骸化しアカウント運用にも力が入らなくなる。これが典型的な停滞シナリオである。
フォロワー数を目標にすること自体が悪いわけではない。フォロワー数の増加がECの売上増や新規客開拓につながるなど組織の課題との因果関係が見えているなら、目標になり得る。まずは何が指標になるのかを見つけて目標設定することによって、予算措置などの支援も受けやすくなるだろう。
「悪事千里を走る」のことわざ通り、ネット上でも炎上の方がポジティブな情報よりはるかに速く多く広がる。「ネットで話題」というだけでマスメディアのネタにもなる現在、影響はリアルにも波及するため気を抜けない。もっとも最近の"バイトテロ"と呼ばれる悪事のように、公式アカウント発の炎上は少ないが、公式アカウントがなければ炎上しないという話でもない。
一方、組織で炎上が起きたときに窓口として重要な役割を果たすのが公式アカウントだ。いざというときにスピーディーにメッセージを伝えるには、アカウントが日ごろからアクティブに運用されユーザーとの関係構築ができていることが重要だ。しっかりした関係が構築されていれば、対応が必要な情報がいち早く公式アカウントに寄せられることも珍しくない。自分たちが発信したメッセージを広めてくれるかどうかも関係性によるところが大きい。
発信力を強化するには、SNSを単なる発表の手段ではなくコミュニケーション手段と捉え、どんな関係づくりをしていくかをイメージした上で、目標と運用の仕組みを決めていくことだ。
社会情報大学院大学 客員教授 ビーンスター 代表取締役社会情報大学院大学客員教授。米コロンビア大学院(国際広報)卒。国連機関、ソニーなどでの広報経験を経て独立、ビーンスターを設立。中小企業から国会までを舞台に幅広くコミュニケーションのプロジェクトに取り組む。著書はシリーズ60万部のベストセラー『頭のいい説明「すぐできる」コツ』(三笠書房)など多数。個人の公式サイトはhttp://tsuruno.net |
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