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広報担当者の事件簿

SNSの恐怖と企業の対応 「性悪説」の視点で教育と対応を

佐々木政幸(アズソリューションズ 代表取締役社長)

    ぼやけていく公私の境 SNSがもたらす破滅 〈前編〉

    【あらすじ】
    大学卒業後、日乃出広告に入社して7年が経つ佐久陽太。企画広報室に所属し、イベントの企画や広報の仕事にやりがいを感じていた。そんなある日、室長の長谷健二にイベント制作会社から転職してきた香川弥彦の教育係を命じられる。香川の言葉遣いや態度に不満を抱きながらも、横浜市との打ち合わせに同行させた。

    大風呂敷を広げた新人

    "なんだと……もういっぺん言ってみろ。ろくに仕事もできないやつが、つべこべ言うんじゃねえ"「とまあ、こんな具合に先輩社員からのパワハラを日常的に受けて……」三日前に入社した香川弥彦が、前職を辞めた理由を話している。

    会社近くにある馴染みの居酒屋「升の込」で、香川の歓迎会を企画広報室全員で開いていた。全員といっても主役の香川を含めて五人だが。一時間を過ぎるとアルコールの酔いも手伝い、皆の口が滑らかになってきている。はじめは殊勝にしていた香川は、アルコールが回ると面倒くさいタイプに変貌した。

    「俺、仕事はしっかりとやりますから。任せてください!」転職して三日の社員が大風呂敷をこれでもかと広げている。まずは自分のことを"私"と言える意識に変えなければならない。自信をもつのは良いことだが、香川のような若者が多くなっていることに危うさを感じる。

    「佐久さん、よろしくお願いしまーす」語尾を伸ばすな。イラッとするんだよ。大学を卒業し、新卒で日乃出広告に入社して7年。佐久陽太はイベント企画を担当して実績を積んできた。昨年からはイベント開催時の広報も任され、やりがいを実感している。

    横浜ランドマークタワー、赤レンガ倉庫、山下公園、臨港パーク。横浜では毎週のように市内でイベントが開催されている。生まれた街に、全国から人が押し寄せていることが誇らしかった。ここ数年はアジアを中心に海外からの観光客も多くなっている。陽太にとって"横浜の魅力を世界に伝える"広報はやりがいでもあり、重圧でもあった。

    「陽太、香川の面倒をよろしく頼むぞ」室長の長谷健二が夕陽に照らされたような顔を向けてくる。「先輩、よろしくっす」長谷の肩越しに香川が顎を突き出してくる。ぺこりと頭を下げたつもりだろうか。イベント制作会社にいた香川にしてみれば、ラフな言葉遣いは当たり前なのだろう。"柔軟な発想"を求められる仕事柄、スーツを身に着けネクタイをきっちりと締めビジネスバッグを持つことはなかったはずだ。だが、言葉遣いまで崩れていることが陽太をイラつかせる。

    「香川君。ちょっとこっち来て」陽太が手招きすると、グラスを手に持った香川が上機嫌な顔で陽太のとなりに移動してくる。「改めて、よろしくお願いしまーす」グラスを合わせる。その言葉遣いをやめろ、と言いたくなるのを我慢する。「まずは乾杯。よろしく」「佐久さん、いろいろと教えてくださいね」香川が顎を突き出す。「仕事は教えられるものじゃない。盗むものだろ」「えー、そうすかー。教えてくれないと分かんないっすよ」

    「香川君……」「香川でいいっす」「じゃあ、香川。前の会社でパワハラを受けていたって言ってたけど、君には思い当たるふしはなかったのか?」「ないっす!俺は企画からスケジュール管理までぜんぶやってたのに、それを先輩が根こそぎ横取りっすよ」「君のために、あえてやらせたんじゃないのか?」「そんな気の利く人じゃない。後輩いじめを楽しんでるだけっすよ」今度、その先輩にお前の評価を訊きにいってやるよ。陽太が独りごちる。

    「仕事はしますんで、俺。何でも言ってくださいよ。エースの佐久さんと組めるなんて光栄っす」「……誰がエースって言ったんだよ」「みんな言ってますよ」香川が即答する。前から用意していた言葉に訊こえる。「それとな。自分のことを"俺"と言うのはやめろ。語尾を伸ばすのも直せ。この会社は知事や市長、企業の社長と接する機会もある。服装は動きやすいもので構わないが、言葉遣いは大人になれ」

    「それって、俺のこと半人前だって言いたいんっすか」酔いの回っている香川が気色ばんでくる。「そうじゃない。君が半人前なのか一人前なのか、私には分からない。ただな、この仕事は外部の方々と接する機会が多いんだ。我々は個人で仕事をしているんじゃない。日乃出広告という看板で仕事をさせていただいている。だから、君が外部と接するときは香川ではなく日乃出広告として見られるんだ。言葉遣いの乱れで企業のイメージなんかすぐに変わってしまう。俺じゃなく私だ。言葉遣いから直せ」 …

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