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広報担当者のためのマーケティング発想再入門

オウンドメディアの目標設定と役割の変化

片岡英彦(東京片岡英彦事務所 代表/企画家・コラムニスト・戦略PR事業)

マーケティング活動の一環としてPRを行う「マーケティングPR」。筆者の実務経験をもとに、基本と実践のポイントを解説します。

筆者は東京でのPR事業と並行し、山形市の東北芸術工科大学で教鞭を執っている。ある日、企画構想学科のゼミ生から「ジャーナリズムとPRの違い」について考えている、という連絡があった。ここで私が示した答えはこうだ。

報道
メディアを使って広く事実を伝えること
広報
公衆との良好な関係を構築するために、情報の送受信を行うこと

報道の基本は「事実」を客観的に伝えることにある。一方「広報」には情報の発信だけではなく傾聴(受信)も含まれる。そして、報道は「伝える」ことが目的そのものであるのに対して、広報には「良好な関係性の構築」という「伝える」こととは別の目的がある。この「目的」の違いが「報道」と「広報」との大きな違いだと考える。

「報道と広報の違い」は根源的問題

個人的な話で恐縮だが、私の社会人としての最初の仕事はテレビ局での「報道」の仕事だった。報道記者の職に就いた1994~95年当時は、まだ企業や自治体においてウェブサイトを活用した情報発信は普及していなかった。災害などの緊急情報も企業のプロモーションも「多くの人に一度に情報を発信する」のはマスメディア(テレビ、新聞、ラジオ、雑誌)に限られていた。

一方、2011年の東日本大震災の時にはすでに多くの企業や自治体は自前のウェブサイトとSNSアカウントを持ち、発生当初から情報発信やインタラクティブコミュニケーションを行っている。

この間に社会に向けての「情報発信(送受信)」はマスメディアだけによるものではなくなった。これまで「情報」は持っていても「報道」することはできなかった企業、自治体、非営利団体は、プレスリリースや記者会見(パブリシティ)を実施しマスメディアに取り上げてもらうことでしか世の中に情報発信する手段がなかった。だが今では必ずしもマスメディアに頼らずとも、自分たちの思い通りの「情報」を、オウンドメディアを使い広く提供することができる。

その結果、旧来の広報部門(マスメディアとの窓口)とは別に、ネットPRによるインタラクティブコミュニケーションに特化した部門やチームを自社内に持つ企業も増えてきた。

目標数値より大切なPR視点と全体感

オウンドメディアの活用をめぐっては、企業内の各コミュニケーション部門にも変化が求められるようになった。そのような状況をまとめたのが図1である。あわせてオウンドメディアの活用において、「目標設定」をどのように行えばよいのか簡単に整理したい。

    背景

    ● インターネットメディアの普及により、マスメディア以外にも生活者とのコミュニケーション方法が広がる
    ● 市場競争の激化により機能やスペック訴求だけでは商品差別化に至らない
    ●「広告慣れ」した人々はマスメディアによる「手前味噌」な企業情報を鵜呑みにしない

    変化

    旧来の広報部門 ➡「戦略PR」の概念の取り入れ

    ● 生活者の意思決定の早い段階での働きかけが不可欠
    ● 社会全体と日ごろからの良好な関係づくり(空気づくり)を行う必要あり
    ● 社会との共創(SDGsなど)を通じて大きな文脈(ストーリー)を共有

    マーケティング部門 ➡「コンテンツマーケティング」の取り入れ

    ● マスメディア以外にも情報入手の選択肢が拡大
    ● マス広告による「売り込み」から、見込み客に「買ってもらうため」の「有益(分かりやすい)」コンテンツの提供
    ● SEO対策の必要性(プッシュ型からプル型へ)
    ● オウンドメディアを使うことにより低コストでブランドストーリー構築が可能に
    ● 良いコンテンツはShared Mediaで拡散されやすい
    ● レピュテーションが高まると顧客とのエンゲージを得ることができる

    ネットPR部門(SNSアカウント運用など) ➡「ブランドジャーナリズム」の取り入れ

    ● 企業は生活者に直接コンテンツを発信できる
    ● 企業が自らについて「報道する」というPR視点(客観的)の導入
    ●「見込み客」に興味を持ってもらうだけではなく、まだ自社に興味のない生活者全般にまず自社のことを知ってもらう認知拡大の重要性 …

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