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本田哲也のGlobal Topics

BtoBの巨大バイオ企業がオウンドメディアを強化した理由とは

本田哲也

今月の本誌特集は「オウンドメディア戦略」。従来の「企業サイト」は、昨今どんどんオウンドメディアに進化している。「メディア」である以上、重要になるのがPRの発想。日本ではまだ、企業オウンドメディアの開発運用は広告会社やデジタルマーケティングのエージェンシーが支援している印象が強い。しかし本来は、広報部やPR会社の知見が活かされる領域だ。

とりわけ、マスマーケティングの手法をとらないBtoB企業では、オウンドメディアを活用したPRの役割は重要だ。PR先進国のアメリカでは、この領域での実践例が非常に多い。

オウンドメディアには、大きく2つの役割がある。「コンテンツマーケティング」と「ブランドジャーナリズム」だ。コンテンツマーケティングとは、顧客や見込み客にとって有益な情報(コンテンツ)を提供し続けることで興味・関心を引き出し、企業と顧客との関係を深め、結果として売上につなげるというマーケティング戦略。

一方ブランドジャーナリズムは、ブランドの発信にジャーナリスティックな要素を組み込むという基本思想。平たく言えば、社会にとって必要な情報、意味のある情報を伝えていくコミュニケーションだ。

ブランドジャーナリズムを積極展開していたBtoB企業のひとつに、昨年バイエル社が7兆円をかけて買収したアメリカの巨大バイオ企業「モンサント」がある。遺伝子組み換え作物に関する国際的な議論でその名を知っている読者も多いだろう。本来、モンサントのビジネス取引先は農場経営企業などで一般消費者ではない。しかしながら、遺伝子組み換え作物への関心が高まるにつれ、様々な議論がSNS上で広がり、モンサントは一般消費者向けコミュニケーションの必要に迫られたのだ。

SNS上では、明らかに間違った情報や憶測を含む情報も流れる。その一つひとつに抗議・反論していては追いつかない。モンサントは、チーフ・テクノロジー・オフィサー(最高技術責任者)であるロブ・フレーリー氏を自社の「顔」としてオウンドメディアによる発信を強化し、SNS上での発言力を高めていった。「LinkedIn(リンクトイン)」のインフルエンサーグループで10万人以上のフォロワーを集めるなど一定の成果をあげていた。

もっとも、バイエルは買収後に「モンサント」の社名を今後使わないことを発表。100年以上続いたモンサントの名は消滅し、フレーリー氏など幹部の退社も報じられた。いかにモンサントという名前が背負った負のパーセプションが強かったかを表している。オウンドメディアはあくまで手段。どれだけ駆使しても、企業やブランドのパーセプションチェンジは簡単に起こるものではない。ではまた来月!

ビジネス特化型SNS「LinkedIn(リンクトイン)」内にあるロブ・フレーリー氏のページ。

本田哲也(ほんだ・てつや)

ブルーカレント・ジャパン代表取締役社長/戦略PRプランナー。「世界でもっとも影響力のあるPRプロフェッショナル300人」にPRWeek誌によって選出された日本を代表するPR専門家。著作、国内外での講演実績多数。カンヌライオンズ2017PR部門審査員。最新刊に『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。

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