遅すぎる報告書はむしろ逆効果
旧ジャニーズ事務所(現SMILE-UP.)は、昨年の記者会見で作成して大きく批判された「NGリスト」について、10カ月以上経った今年8月27日、調査結果を公開した。事務所とは無関係にPR会社が勝手にリストを作成したことなどが書かれている。しかし、正式な報告書の公開までにここまで時間が経過していることで、むしろ組織の姿勢に疑問を投げかける結果となった。
ブログや掲示板、ソーシャルメディアを起点とする炎上やトラブルへの対応について事例から学びます。
アルバイト店員による悪ふざけ動画が相次いで拡散され、企業がその対応に追われている。
くら寿司では魚をゴミ箱に入れた後にまな板の上に戻す動画、セブン-イレブンではおでんの白滝を口にくわえて出す動画、またその1週間後には別の「おでん吐き出し」動画が拡散、バーミヤンではくわえタバコで中華鍋を振る様子が、ファミリーマートでは商品と見られるお菓子などをペロペロなめる映像、すき家では「くびかくご」とテロップを入れて股間におたまをあてて踊る様子が、そしてビッグエコーさらには大戸屋でも悪ふざけ動画が出て広まっている。
メディアが一斉に報道して社会的な注目を集めている。人手不足と低賃金、若者の無知、チェーン店運営の限界などその原因に目を向けるものや、企業が告訴で抑止効果を図ろうとする動きやその是非など既に様々な観点から論じられているが、本誌ではあくまで広報の実務的な対応について考えたい。
今回の一連の事件で注目したいのは、拡散したものが必ずしも直近の「悪ふざけ動画」ばかりではないことだ。
従業員がコンビニのアイスケースに入った画像で社会に衝撃を与えたのは2013年のことだった。こうした「バイトテロ」とも称される事件を契機に、企業はネット上のモニタリング体制を整えてきた。その結果、今日では多くの人の目に触れる前に、対処を終えている問題も少なからずある。
ビッグエコーの動画は、2018年12月に拡散してビッグエコー運営元の第一興商が謝罪していたものの、今年に入って再び注目を集めたことで、改めて謝罪文を公開している。バーミヤンの動画は2018年3月に撮影されたものだった。広報としては、拡散・炎上に際して、それがいつのものか、対処済みか未対応かを確認し、対処済みならば当時の対応とその後の情報を謝罪文などとともに迅速に発信する必要が生まれてきているということなのだ。
店舗運営の観点ではこうした「バイトテロ」が起きないよう実務的な取り組みを進める一方で、広報は予兆を見逃さない体制をとっておきたい。
最近の転職情報サイトには、各企業の社員による評価がスコア化されている。もちろんすべてをそのまま信じることはできないが、本コラム執筆時の転職情報サイトVorkersによると、問題の動画が拡散した各企業のスコアは、「人材の長期育成」という項目で共通して低い。組織のためにがんばろうというモチベーションと関連性の高そうな項目だ。
事件後、企業は揃って「従業員の再教育に力を入れる」とコメントし、ネット上には「こんなことも企業が教育しなくてはならないのか」と嘆く声も見られるが、最近ではバイトテロが企業のマネジメント力が足りないためとも見られ始めている。広報も様々な指標から最新の状況をつかんでおきたい。
社会情報大学院大学 客員教授 ビーンスター 代表取締役社会情報大学院大学客員教授。米コロンビア大学院(国際広報)卒。国連機関、ソニーなどでの広報経験を経て独立、ビーンスターを設立。中小企業から国会までを舞台に幅広くコミュニケーションのプロジェクトに取り組む。著書はシリーズ60万部のベストセラー『頭のいい説明「すぐできる」コツ』(三笠書房)など多数。個人の公式サイトはhttp://tsuruno.net |
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