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災害リスク 広報が備えておくべきこと

災害発生時の企業サイト運用 迷わないためのチェックリスト

増井達巳(合同会社フォース 代表)

事業継続計画(BCP)において、重要なタスクのひとつが企業サイトの更新だ。システムの管理、更新権限や発信内容の承認プロセスなど検討事項は多数。東日本大震災のケースも踏まえ、災害時の企業サイト運用のポイントをまとめた。

企業サイト更新は重要なタスク

東日本大震災(2011年3月11日発生)まで、企業の公式ウェブサイト(以下:企業サイト)における情報発信の重要性が本質的な意味では認識されていなかったかもしれません。もちろん、2011年当時、テレビ・新聞・雑誌など従来のメディアに加え、企業サイトが広報活動やマーケティング活動においても重要なメディアになったことを否定する企業はなかったと思います。

しかしながら、生活インフラや情報インフラが影響を受けるような大規模災害発生時、真偽が判別できないものを含め大量の情報が行き交う中で、企業サイトを通じて発信される正確かつタイムリーな情報は必要不可欠なものだと改めて痛感したのではないでしょうか。それは被災地の方々だけでなく、企業の製品やサービスを利用する被災地以外の方々にとっても同様です。

例えば、宮城県石巻市の唯一の新聞『石巻日日新聞』は黒のフェルトペンと白いロール紙を使って、手書きで新聞を発行しました。大きな被害を受け、コンピューターやウェブサイト、3Gの携帯はおろか、20世紀の印刷機を動かすことすらできなくなったからです。震災翌日の3月12日から17日まで6日間にわたって「号外」として発行された壁新聞は、情報が得られないことによる不安から被災地の方々を救う命綱になりました。

東日本大震災では、多数の中小企業が貴重な人材や設備を失ったことで、廃業に追い込まれました。また、被災の影響が少なかった企業においても、復旧が遅れ自社の製品・サービスが供給できず、その結果として顧客が離れ、事業を縮小し従業員を解雇しなければならないケースも見受けられました。

事業継続計画(BCP:Business Continuity Planning)とは、「事業の中断・阻害に対応し、事業を復旧し、再開し、あらかじめ定められたレベルにまで回復するように組織を導く文書化した手順(ISO 22301:2012)」と定義されています。

つまり、企業の事業活動が災害などの阻害要因に対し中断することを前提とし、速やかに事業を復旧、再開するために必要不可欠なタスクをあらかじめ定め、継続させることが目的です。そしてその中でも最も重要なタスクが、企業サイトにおける継続的な情報発信です。端的に言えば、企業サイトがシステム的にも人的運用においても停止しないことが求められるということです。

中小企業こそBCP対応を

さて、BCPとは大企業だけが検討するものなのでしょうか。どんな歴史的背景があるのでしょうか。

企業が突然発生する阻害要因に直面し、事業継続の必要性を意識する世界的なきっかけとなったのは、2001年に起きた米国同時多発テロ事件です。その後、日本においても2005年3月に「事業継続計画策定ガイドライン(経済産業省)」が、同年8月には「事業継続ガイドライン(内閣府)」が発表されました。

そして2006年6月には「中小企業BCP策定運用指針(中小企業庁)」が発表されていました。そうです。BCPの策定と運用は、東日本大震災発生前から、中小企業にとっても取り組むべき重要テーマだったわけです。

しかし「平成29年度企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」(2018年3月:内閣府発表)によると、BCP策定済みの企業は、大企業で64.0%、中堅企業で31.8%となっていて、中堅企業、中小企業においてはまだまだ進んでいないのが実情のようです。

東日本大震災や、2018年に多発した自然災害でも明らかになったように、大規模災害が発生し企業活動が滞ると、その影響は各企業に留まりません。その地域の雇用・経済に打撃を与え、さらには、取引関係を通じて他の地域にも影響を与えることになります。

災害時における企業の事業活動の継続を図る「事業継続計画(BCP)」の策定、および平時における経営戦略となる「事業継続マネジメント(BCM)」の普及を推進することは、日本経済の安定性の確保と日本企業の信頼性向上のために極めて重要です。中小企業においても早急に取り組むべき課題といえるでしょう …

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