スマホの普及によって、災害とコミュニケーションはより密接に関わるようになり、広報は、情報発信だけでなくデマ拡散の防止などのリスク回避も担うようになった。被災企業へのアドバイスも行う危機管理広報の専門家が、災害時の広報対応を解説する。
企業が防災に取り組むべき理由は?
災害の広報対応を議論する前に、災害とは何かについて考えてみたい。
災害といえば地震や津波、洪水の猛威や破壊力が目に浮かぶ。しかし実際に大きな被害を引き起こす要因は、都市への人口集中と、社会や企業の防災力の欠如である。
1995年に発生したM7.3の阪神・淡路大震災では、6000人以上の死者が出た。しかし5年後の2000年に発生したM7.3の鳥取県西部地震では、死者はゼロだった。
2011年の東日本大震災と津波を誘因とする福島第一原子力発電所の事故は、日本だけではなく世界を震撼させた。福島をはじめとする東北地方と日本全国に多大な被害をもたらし、世界の原子力発電推進政策にブレーキをかけた。
2016年の熊本地震では、震災関連死を含む死者数は272人(2018年9月28日時点)とされている。しかし、トヨタ、ソニー、三菱電機といった日本の大手企業や関連する協力メーカーが被災し、サプライチェーンが破断して日本の生産業と経済は大きな被害を被った。
2018年9月4日、台風による高潮で地下の電源設備などが浸水し滑走路のひとつが水没した関西国際空港は、同日、関空連絡橋に大型のタンカーが衝突し、文字通りの孤島となってしまった。利用客に与えた迷惑は大きかったが、海外との輸出入、観光も含め、関西を中心とした日本の経済に与えた被害も甚大だった。
9月6日に発生した北海道胆振東部地震は、道内全域に停電をもたらした。日本で初めて発生したブラックアウトと呼ばれる異常な事態だった。停電により多くの食品メーカーや流通が影響を受け、給油所は営業できず、道民の生活に深刻な影響がでた。
これらの災害を人災と呼ぶべきかどうかは、意見が分かれるところである。しかしどのケースでも、事故を起こした企業のリスク対策の不備や経営体質などにおいて、様々な問題が指摘されている。
災害時の広報対応、準備はOK?
地震による建物の倒壊や火災を原因とする死者負傷者、津波や水害の避難指示の遅れや不備がもたらす人的被害については、国や自治体が非難の対象となっても、特定の企業がやり玉にあげられることはまずない。しかし自然災害が誘因であっても、企業が起こした事故や事件が二次災害を招くと、それらの企業はメディアや国民の非難の的となり、名声を落とし、原因の調査や再発防止策を厳しく求められる。
危機管理広報のコンサルタントである私の印象では、災害時に人々の命と安全を守るための活動に真剣に取り組んでいるのは、交通機関、電力・ガス・水道・流通・通信などのインフラ系企業、学校・病院・イベント会場など人が集まる施設、ビル設備の保守会社など。もちろんその活動には広報活動も含まれる。
しかし、他の大多数の業種では通常の危機管理広報は導入していたとしても、災害に特定した広報活動への関心は薄い。農業・漁業、商品・製品・部品などの生産・製造に携わる企業を除けば、災害を想定したメディア対応の準備をしている企業はほとんどない。「自社だけが被災するわけではない」との意識が強いのか。もっとも大規模な災害時にはメディアの関心は行政やインフラ系企業が引き起こす災害とその影響に向かいがちであることも事実である。
社内外への広報対応を整理しておく
しかし、あらゆる企業・団体の広報部門が力を注ぐべき重要な課題がある。それは社員・従業員とその家族の命を守り、安全を確保するための社内向け広報活動である。
具体的には、社員の携帯電話番号とメール、自宅電話番号などを網羅する連絡網と、連絡手順の事前整備があげられる。また災害時にはイントラネットなどに緊急連絡ページを開設する、外部の伝言ダイヤルなどを活用する、連絡網などを通して自社の被害状況を調査し社員へ周知する、関係会社・取引先や行政との情報のやり取りを密にすることなどが含まれる。これらの作業のすべてを広報が担当しないとしても、コミュニケーションの専門家である広報が災害時にアドバイスし支援できる範疇は大きい …