複雑化する企業の諸問題に、広報はどう立ち向かうべきか。リスクマネジメントを専門とする弁護士・浅見隆行氏が最新のケーススタディを取り上げて解説する。
問題の経緯
2018年12月10日
官民ファンド「産業革新投資機構(JIC)」の取締役9人全員が辞職の意を表明し、東京都内で記者会見を開いた。そのうち5人は個別に声明文を発表。12月3日には経産省がJICの申請した報酬案を認可しないと発表し、JICに報酬水準を低くするよう見直しを求めていた。JICはこれに対し「9月に経産省から提示されたものと同一」などとリリースで説明していた経緯がある。9人は、12月28日の臨時株主総会後に辞任した。
2018年12月10日、産業革新投資機構(JIC)の民間出身の取締役9人全員が辞任することを発表しました。同日、田中正明社長は辞任理由を説明する記者会見を実施。さらに、辞任する取締役のうち5人が個別に声明文を発表したことから、世間の注目を集めました。
主な辞任理由としては、取締役らとJICを所管する経済産業省との間で、「役員報酬」と「投資手法・方針」の2点について対立していたことが挙げられました。
本件は、企業における「経営方針を巡る対立」に似た事案です。企業では毎年のように起きていて、最高経営責任者らの進退に影響が出たケースでは、大塚家具(2015年)、セブン&アイ・ホールディングス(2016年)、三越伊勢丹ホールディングス(2017年)などがあります。また、出光興産と昭和シェル石油の経営統合では、創業家による反対が起きたこともありました(2015年~2018年)。そこで今回は、JICを取り巻く問題を題材に、経営陣と株主が経営方針などを巡って対立した場合の広報対応について考えます …