IR活動において、他部署との連携が重要だと痛感した広子。社外に向けたIR活動だけでなく、「社内IR」という方向から「株価アップ」へのアプローチを考えることにした。
大森:前回は、本格的なコーポレートストーリーの見直しやそれに紐づく類似会社、ターゲット企業の選定や、事業の持続可能性、ESG対応などから評価されるであろうリスクを洗い出そうという話をしたね。そのリスク評価に対する向上施策については、リスクの捉え方、整理の仕方を確認してから話すことにして、今回はそれ以外の活動を考えてみよう。
広子:どんな活動ですか?
大森:そうだなあ、例えば前回、「株価を上げるためには将来的な業績を上げることが重要だけど、それはIRの事業領域ではない」という整理をしたと思うけど、IR担当者にも少しだけできることがある。
広子:えっ?
大森:IR担当者は社外のアナリストや機関投資家と直接対話しているよね。だから自社に対する評価について、一番多く、そして一番率直な意見を聞く立場だ。
東堂:もしかして、それをフィードバックするということですか?
大森:いいね、そういうことだよ。外の人は内情を知らない分、実数字を中心に、他社と並べて俯瞰した位置から率直な比較を行う。社内の人からすると、的外れかもしれないし、逆にまったく新しい気づきがあるかもしれない。
広子:なるほど。そういえば、ある機関投資家がうちの同業他社としてピックアップしている企業を営業部に話したところ、「そんな会社とはまったく競合しない、理解できない」といった反応でしたね。
大森:いいね。そのギャップはぜひ整理して活用してほしい。営業部や開発部など現場の方が違和感を持ったポイントは、事業施策やビジネスプロセスの改善点かもしれないし、IR担当者が投資家に説明して理解を求めるべきポイントかもしれないよね。
東堂:なるほど、外部の評価を内部に伝えて、内部の反応を新たなIRのネタにつなげる、という流れは効率的ですね。
広子:社内でのIR活動も一層注力しなきゃいけないですね。
東堂:「巻き込み力」なら広子先輩の本領発揮ですね!
大森:巻き込み力ね。そういう意味では、社員をIRの活動領域に直接巻き込むことも考えるべきかな。
広子:それ、どういうことですか?
社内IRの2つの目的とは
大森:広子さんは社内IRの目的はなんだと思う?
広子:通常のIRの目的がファン株主の獲得だから、社内にファン社員を増やす?
大森:面白い表現じゃないか。普通は、社内の協力を得てIRをより円滑に進めるために、IR担当の存在や活動内容を知ってもらうことだと言うけどね。まずはIR活動を知ってもらうことが基本的で重要な目的のひとつだと思うよ。
広子:それは、本当に痛感しますね……。どこの部署にどんな情報があるのか、理解するまで苦労しました。
東堂:そうだったんですね。今では広子先輩が他部署を引きずり回しているイメージなのに。
大森:ははは、そういう意味では最初の目的は達成できているね。で、2つ目の目的は、会社の目標である経営理念を共有し、その実現に向けて自分がやるべきことを理解してもらう、ということなんだ。
東堂:経営課題を理解して、同じ目的意識で各自が自分の仕事をしている会社は強いでしょうね。
大森:いいこと言うね。同じ目的意識で動くと、最大の効率化になることを証明できるよね、東堂さん?
東堂:えっ、少し無茶ぶりですよ。
大森:数字力の説明をしたときに「評価軸」という話をしたことを思い出してみて。
東堂:ある動きを、評価軸の方向に動いた量のみを評価とする、という話ですよね。
大森:そうだね。数学で習ったベクトルと同じイメージだよ。
広子:うーん、難しい。東堂、あとは任せた。
東堂:要するに、各自の力を出す方向、引っ張る方向がみんな揃っていると、合わさった力が最大になるってことですよね。
大森:ついでに言うと、物理の仕事量という概念は、力の大きさとその力を加えた方向に動いた距離の積で表すのは分かるかな?ビジネスの世界の仕事も、上司が指示する方向に事を動かしたことだけが評価されるという意味では一緒だね。
東堂:取締役を「Director」、方向を示す者、というのは、社員や会社が目指す方向を示すという意味もある、と聞いたことがあります。
ファン社員を増やすために
大森:ファン社員の話に戻すと、顧客をはじめとするステークホルダーに直接応対する社員が、自分の会社が好きで、自分の会社やサービスについていきいきと話すって、それだけでいい会社だと思わない?
広子:いいですね。最近よく言われている「アンバサダー」ですね。
大森:おお、そうだね。自分の会社の存在意義を、企業理念を熱量込めて話してくる社員がいたら、どう?
東堂:いいですね!普段の広子先輩がそんな感じです。
大森:ははは、そうかい。僕は、日本を代表するような大きなメーカーの社員の方が、数十年前の創業者の想いを自分の言葉で話すのを見て、これがこの会社の底力、強さだなって思ったことがあるよ …