遅すぎる報告書はむしろ逆効果
旧ジャニーズ事務所(現SMILE-UP.)は、昨年の記者会見で作成して大きく批判された「NGリスト」について、10カ月以上経った今年8月27日、調査結果を公開した。事務所とは無関係にPR会社が勝手にリストを作成したことなどが書かれている。しかし、正式な報告書の公開までにここまで時間が経過していることで、むしろ組織の姿勢に疑問を投げかける結果となった。
ブログや掲示板、ソーシャルメディアを起点とする炎上やトラブルへの対応について事例から学びます。
個人の不注意によるネット上の事故が頻発している。今回は新しい年の始まりなので、いくつか最近の事例から組織の対策を考えてみたい。
石川県羽咋市(はくいし)が2018年春、市主催イベントのチラシに、ネットで見つけたイラストを参考に男女10人が輪になっている絵を描いて載せた。これを市内で約900部配布したほか、市のホームページにも掲載していた。これに対して元のイラストを描いたイラストレーターが抗議。
市が調べたところ、職員がネットで見つけたイラストを無料で使えると思い込み、使用条件などを確認せずに描いていたと判明した。市は過去の判例などから著作権侵害を認め、賠償金約35万円とイラスト使用料約17万円を支払って和解した。
東京都港区の小学校に勤める男性教諭が7月、土用の丑の日に出た「ひつまぶし」などの給食の写真を職員室で撮り、個人のInstagramに投稿していた。写真には登下校誘導員の名簿の一部が写り込んでおり、ひとりの氏名や電話番号、住所の一部が読み取れるようになっていた。投稿は4カ月後の11月に削除され、区の教育委員会と校長が誘導員に謝罪した。
Apple機器同士で画像などのファイルを無線で送受信できるAirDrop機能を使い、見知らぬ人にわいせつな画像などを送りつけるイタズラが深刻化している。ニューヨーク市議会ではこうした行為(英語では「cyber-flashing」と呼ぶ)もセクハラに相当するとして取り締まり、違反者には罰金もしくは懲役を科す法案が出ている。
2018年秋、長野県内の複数の自治体で、公共事業の入札公告でウェブサイトに掲載したPDF形式の資料から、積算価格が読み取れる状態になっていた。エクセルなどの表計算ソフトで作成した設計書をPDFに変換する際、価格情報を削除せず文字の色を背景と同じ白に変え、画面上で見えないようにしただけだった。PDFの文字をコピーしてワードなどの文書作成ソフトに貼り付けると、PDFでは見えなかった金額が表示される。担当者は、白文字のデータがPDFファイルに残ることを知らなかったという。
11月、日産のカルロス・ゴーン会長が逮捕されたことが報じられた直後、ホンダ販売店の「Honda Cars 大阪東 花園店」が店舗のTwitterアカウントで「やったぜ日産 カルロス・ゴーン逮捕!」とツイート。投稿はその後削除されたが、本田技研工業は謝罪メッセージを出した。
どれも単純だが、いつ起きてもおかしくない。こうした問題に実効性の高い対策は、地道な日ごろの注意喚起や研修である。社内報で事例をその都度紹介していくだけでも意味がある。継続的に事例を追えば、似た問題が繰り返し起きていることも分かるはずだ。
社会情報大学院大学 客員教授・ビーンスター 代表取締役社会情報大学院大学客員教授。米コロンビア大学院(国際広報)卒。国連機関、ソニーなどでの広報経験を経て独立、ビーンスターを設立。中小企業から国会までを舞台に幅広くコミュニケーションのプロジェクトに取り組む。著書はシリーズ60万部のベストセラー『頭のいい説明「すぐできる」コツ』(三笠書房)など多数。個人の公式サイトはhttp://tsuruno.net |
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