この世には「バカ」がつくほど愛される、PR上手な商品・サービスがある。そんな「PRバカ」と呼べる存在を求めて、筆者が仕掛人を訪ねていきます。

(右)東京急行電鉄 都市創造本部 渋谷戦略事業部 営業部 渋谷ストリーム運営課
杉本里奈さん
(左)商品開発コンサルタント 美崎栄一郎(筆者)
File:11 東急電鉄「渋谷ストリーム」

Ⓒ渋谷ストリーム
2018年9月に開業した大規模複合施設「渋谷ストリーム」。地上35階・地下4階となっており、14階以上のオフィスフロアにはグーグルが本社機能を移転予定。
JR山手線の品川と田町の間に新駅「高輪ゲートウェイ」が2020年に開業するということで、いい意味でも悪い意味でもネーミングが話題になりました。それに関連して、ネット上ではほかの山手線駅にもカタカナを付けた名称が投稿されて大喜利状態に。例えば渋谷は「渋谷ヤングシティ」。確かにイメージ通りです。
渋谷は若者が多い新しい街のイメージですが、実は歴史が古い場所です。古くは、平安時代に渋谷城というお城があり、地域を治めていたようです。現在の渋谷3丁目の金王八幡宮あたりが本丸です。都内のほかの地域より古いはずなのに、町として若いのはなぜでしょう。
街の環境整備やポジティブな印象をつくり出すのが都市計画や街づくりの目的です。そこで、渋谷の中心から周囲の地域に新しい風を吹き込んで、新鮮なイメージを醸し出すのに一役買っている、東京急行電鉄 渋谷ストリーム運営課の杉本里奈さんにお話を伺いました。
今回は商品やサービスとは一味違う、街や場所のブランディングや広報に注目したいと思います。
川を中心とした街づくり
渋谷ストリームは、東急の旧東横線渋谷駅のホームと線路の跡地およびその周辺地区に誕生した大規模な複合施設です。官民連携による渋谷川および水辺空間の再生・整備によって、街自体が生まれ変わった印象がある面白いプロジェクトです。
渋谷駅前には東急グループの建物も多数ありますが、ファッションビルSHIBUYA109がある渋谷のスクランブル交差点側と反対方面のため、足を運ぶ機会があまりなかったという人も多いのではないでしょうか。杉本さんも「渋谷ストリームのある駅の南側"渋南(しぶなん)"は、渋谷の中でもまだ『色がついていない』エリアです。ここにいかに人の流れをつくるかが課題でした」と話します。
渋谷ストリームの前には渋谷川が流れています。渋谷に川があったんだ!と関西人の私には驚きだったのですが、「谷」と付く地名ですから川が流れていて当然ですね。ちなみに渋谷の名前の由来は渋谷川の水が関東ローム層の赤土由来の渋色(赤茶色)だからだという説があるくらいです。現在渋谷ストリームがある付近の渋谷川は、以前は東横線のホームや線路で見えにくくなっていましたが、今回その渋谷川沿いに新たな空間が創出されたのです。
渋谷ストリームのコンセプトは「クリエイティブワーカーの聖地」。世界を代表するクリエイティブな会社が入居する予定になっているそうです。周辺の施設も盛り上がっていくことが予想されます。
商業ゾーンやホテルなども併設されています。クリエイティブワーカーの聖地というコンセプトに合致した心地良い空間が特徴です。4階にはホテルロビーにサイクルカフェ、アクティビティーコート、低層フロアには約30店舗からなる商業ゾーン、別棟の4~6階にはホール、そして施設の前には渋谷川の上に官民連携によって整備された2つの広場があります。この場所の魅力をどのように伝えるのかが広報のポイントですよね。
実は、河川区域というのは法的にはこれまで鉄道や道路など限られた占用しか認められていませんでした。それが2011年に法改正されたことで活用の幅が広がったのです。渋谷川の整備は「都市・地域再生等利用区域の指定」を受け、東京都・渋谷区、そして民間の協働により実現した事例なのです。そうとは知らずに、渋谷ストリームという場所を楽しんでいる若者がいっぱいです。渋谷川をInstagramなどのSNSにアップしている人も続出して、まさに人の流れをつくっていました …