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IRの学校

株価を上げるためのIRの考え方

大森慎一(Japan REIT 社長室長)

「株価アップ」を中期的なIR活動の目標とした広子であったが、具体的な活動計画に落とし込むところまでは至っていない。いざ実践のフェーズに入り、ヒントを得ようと今日もセミナールームを訪れた。


広子東堂:こんばんは。

大森:こんばんは、今日は前回の続きを掘り下げてみようか。

広子:はい、「ファンダメンタルに株価を上げる」という目標に向けた具体的なアクションプランということでお願いします。

大森:ははは、具体的な方策は自分たちで考えてもらうとして、とりあえず考え方を整理する、ってことでいいかな。

広子:はい、お願いします。

大森:では、代表的な株価モデルとIR担当の活動範囲の関係をもう一度整理してみるところから。まず、株価を上げるには、根本的には将来的な成長性期待も含めて業績を上げることとなる。ここはいい?

東堂:そうですね、根幹ですよね。でも、そこは経営企画や実際に事業を行う事業本部の活動範囲であって、IR担当の領域ではないですよね。

大森:まあ、基本的にはそうだね。で、マルチプルモデルの代表的な評価手法である「類似会社比準法」は、類似の会社の市場評価をもとに、比較で適正価格を算出しようというものだね。

東堂:市場評価ということは、いわゆるマーケットアプローチですね。

大森:そう。一方DCFモデルなどでは、将来のキャッシュフローを予測してそれを期待収益率で現在価値に割引いて評価する。

東堂:現在価値に割引くですか、ちょっと待ってください。

大森:いいよ。予測した将来のキャッシュフローは、現時点でどれだけの価値があるか、という話なんだけど。今ある資産を期待収益率で運用した結果、将来これだけの価値になる、と考えるのと逆の話だね。

東堂:期待収益率が高く設定されている会社は、将来性の期待が高いのではなく、逆にそれだけの期待収益率が見込めないと投資できないリスクのある会社という判断をされているということでしたよね。

大森:よく覚えているね。というわけで、類似会社比準法とDCF法ではアプローチは異なるけど、評価額を左右するファクターは同じなんだ。

株価モデルの三要素

広子:えっ、そうなんですか?

大森:もちろん、影響度合いは異なるけどね。「予想数字」と「選定する同業他社」と「いわゆるリスク」の大きさだね。

東堂:いわゆるって何ですか?

大森:一般的にリスクは危険度といった感じで受け取られると思うけど、金融などの世界では、予想通りに行かない割合と考えるんだ。

広子:不確実性でしたね、そして、リスクとリターンは比例するんですよね。ハイリスク・ハイリターンか、ローリスク・ローリターン。

大森:そう。そのリスクの軽減で、平均PER(株価収益率)にプレミアムを付けて高く評価したり、逆にディスカウントとしたり、割引率を上下させたりして評価額を算出するんだ。

東堂:株価のボラティリティと期待収益率の話は覚えています。

大森:そうだね。株価のボラティリティは代表的なリスク要素で、あの時は市場平均と比較した株価変動の大きさをリスクとして説明したと思うけど、業績の変動やその他のリスクも同じように考えるといい。

広子:業績の不確実性が高い会社は期待収益率が高くて、会社の株価は低くなるんですよね?

大森:簡単に考えてよ。もし同業他社のPERより低くなっているのであれば、リスクがあると評価されているか、正しい評価を得られていないということだよ。

広子:後者だと正しい評価を得るため、前者だと再評価のためのプレゼンを行えばいいということですね。

大森:じゃあ、次は「選定する同業他社」だ。類似会社比準法ではストレートに反映されるのは分かるよね。

東堂:そうですね、比較企業が変わればそのまま、平均PERが変わりますね。でも割引モデルにも影響ありますか?

大森:そうだね、実は同業他社のボラティリティを参考にしたりする。市場の株価データが少ない新規上場企業や未上場企業では特にね。

広子:なるほど、予想数字を含めた、三つの要素が株価モデルに利用されている、というのは分かりました。

他部署とリスクの整理を

大森:いいねぇ。じゃあいよいよIR活動との関係性だね。

広子:はい、お願いします。

大森:まずリスクの面だけど、持続可能な成長が期待できることを理詰めで証明し、理解してもらうことになる。そこで、業績の変動の要因となるリスクを企業活動のそれぞれの過程から洗い出す。例えば研究開発や調達、生産、販売はもちろん、販売先での製品の消費や廃棄に至る過程、サイバー環境や労務環境などの環境整備の状況などもそうだね。事業活動に影響を与える要素として洗い出し、変動の可能性と対処状況を整理する。

広子:ええっ、それは無理ですよ~。

大森:IR担当がやれってことではないよ。会社ではリスクマネジメントの一環として整理しているはずさ。

東堂:経営企画部に問い合わせてみます。当社の実際の資料は見てませんが。

大森:そうだね。CSRやSDGsへの対応が必ずしも機関投資家の評価を得ていないという話もしたよね。自然保護や社会貢献という社会的な意義やコンプライアンス的な要素だけを捉えるのではなく、リスクマネジメントと紐づけて整理してほしいな。

広子:経営企画部の頑張りというか、成果に期待するしかないですね。

大森:整理した要素ごとに何を軽減している、避けているという一般のリスクマネジメントだけではなく、「この領域では上方可能性も高いのでこういう投資をしている」といった話もできるといいね。

広子:ふう。とりあえず、そのリスクの整理の状況を確認してきますね …

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