新聞記者、PR会社を経て活動する岡本純子氏によるグローバルトレンドのレポート。PRの現場で起きているパラダイムシフトを解説していきます。
12月1日発売の今号は毎年恒例、危機管理の特集。ということで、今回はクライシスコミュニケーションのグローバルトレンドについて掘り下げてみたい。
2018年のグローバルクライシス事例を一言で総括すると「お騒がせトップの年」ということになろうか。まず何といっても、米トランプ大統領。彼の数々の問題発言、行動は国民の亀裂と混乱を招いたわけだが、これにつられるように(抵抗の意を示して)、自らの旗幟を鮮明にする企業も現れ始めた。これまで、企業は政治的なスタンスを見せるべきではないと考えられてきたが、最近は、企業として「take a stand(態度を明確に示す)」であるべきという考えが支持を集めつつある。
あの問題企業も「通常営業」に
世論の分断が進めば、万人受けなどなかなかできない。そう割り切って、あえて、論議を呼びそうな「炎上戦略」を選択する企業も出始めた。人種差別への抗議のため、試合前の国歌斉唱で起立せず、大バッシングを浴びたNFLの選手を広告に起用したのがナイキだ。アメリカの保守層は大激怒し、ナイキのスニーカーを燃やしてその動画をソーシャルに上げるなどボイコット運動にまで発展した。しかし、株価は一瞬下落したものの、持ち直し、売上も伸びているという。話題づくりは大いに成功したと言われている。
日本企業は不祥事を極度に恐れるが、実は、企業不祥事は、長期的に見れば企業価値を落とさないという研究もある。1993~2011年までにアメリカで発生したわいろ、詐欺、CEOのスキャンダルなど80件の企業不祥事を調べたところ、発生から1カ月以内に、6.5~9.5%株価が下落したものの、その後は競合などよりもいい業績を残す結果になったという(*1)。不祥事からの立て直しの過程で、改善策を施行し、「膿」を出すことができるというのが理由らしい。
(*1)出所/「The market response to corporate scandals involving CEOs」Surendranath R.Jory,Thanh N.Ngo,Daphne Wang&Amrita Saha
近年、話題になった不祥事としては、顧客に無断で口座を開くなどの不正営業が問題視されたアメリカの銀行ウェルズ・ファーゴ、排ガス不正で「最悪の不祥事」といわれたドイツのフォルクスワーゲン、乗客の引きずり降ろし騒動で批判を浴びたアメリカのユナイテッド航空などがあるが、どの企業も、今は何事もなかったかのように"通常営業"を続けている …