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危機管理広報2019

歴史に残る失敗事例から学ぶ 組織の危機管理広報の鉄則

江良俊郎(エイレックス 代表取締役)

2018年も不祥事で多くの組織が謝罪した。危機管理広報、危機対応、あるいは「広報」がこれほど注目された1年はここ数年で稀だろう。

日大とスルガ銀の失敗の共通点

この1年で注目を集めたのは、何といっても日本大学アメフット部の悪質タックル問題をめぐる対応である。同大学の対応は、悪い見本を全部見せてくれたと思えるもので、私は「組織の危機管理広報において歴史に残る失敗事例」と位置づけている。

問題の詳細は本誌の特集に譲るが、初動のまずさ、組織としての対応の遅れは、改めて指摘しておきたい。5月6日の試合終了後、問題の動画がネットにアップされ、徐々に「あり得ない」「故意による傷害事件だ」といった批判が拡大したにもかかわらず、大学は「チーム間で解決すべき問題」として対応しなかった。

大学の組織上対応が困難といった問題もあるが、それは組織の論理であり一般社会には通用しない。「放置すると重大な事態になる」として大学が即座に事実関係を調査し、被害者に謝罪するなどしていれば事態はまったく変わっていただろう。

2018年に明らかになった不祥事では、スルガ銀行の不正融資問題への対応も、疑惑が持たれた段階でまったく対応せず、さらに広報が不正を全面否定するなど、初動で日大と同様の失敗をしている。

報道のトーンを決めた「失言」

この1年はスポーツ界で、多くの問題が噴出した。体操界におけるパワハラ告発問題でも、告発した宮川紗江選手の会見の翌日、日本体操協会の塚原光男副会長が自宅前で「全部うそ」と発言し、その後の報道のトーンが決まってしまった。少なくとも「指摘を真摯に受け止め、協会の調査には全面的に協力させていただく。選手から不信感を持たれてしまったことについては、お詫びしたい」といったコメントが出ていれば、その後の状況は変わっていたと考える。

2017年秋から続く、データ改ざんなどの一連の不祥事でも、事態を甘く見た結果や十分な調査がなされず深刻な事態に発展したケースも少なくない。編集部の調査によると、「うそ・隠ぺいの姿勢」が最も不祥事による当事者のイメージダウンを決定づけるという結果も出ている(図1)。組織の広報担当者は、2018年の一連の不祥事対応を教訓とし、的確に今後の事態の予測、特に最悪な事態をイメージできるか、という想像力を鍛え、トップに進言する必要がある。

図1 不祥事を起こした当事者が評判を落とす原因
出所/広報会議編集部「2018年に発覚した企業・個人の不祥事」に関するアンケート



エイレックス
代表取締役
江良俊郎(えら・としろう)

大手PR会社を経て2001年、事件・事故、企業不祥事対応を手がける危機管理広報会社、エイレックス設立。日本広報学会理事、日経ビジネススクール講師を歴任。日本パブリックリレーションズ協会副理事長。

広報会議編集部「2018年に発覚した企業・個人の不祥事」に関するアンケート
〈調査概要〉
調査方法 インターネットリサーチ
対象 全国、20~69歳の男女(平成27年国勢調査による、エリア×性別×年代別の人口動態割付)
期間 2018年11月8~9日
有効回答数 1000

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