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危機管理広報2019

2019年「ネット炎上」の備え方

山口真一(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター講師)

ソーシャルメディアの台頭により、企業の「ネット炎上」が日常化している現代。計量経済学の手法を用いて、口コミや炎上の経済効果とメカニズムを検証している筆者が、2018年の出来事を振り返りながら、リスクを回避して効果的に発信する方法を解説する。

インターネットの普及によって、誰もが自由にオープンな場で発信することができるようになった。そんな"一億総メディア時代"が到来したことで、消費行動とマーケティングも劇的に変化している。

NTTコム リサーチの調査によると、ソーシャルメディア活用による売上の増加を実感している企業は約6割(*1)。筆者が所属する国際大学グローバル・コミュニケーション・センターとグーグルとで行っている「Innovation Nipponプロジェクト」の研究でも、ネット上の口コミには年間1兆円以上の消費喚起効果があることが明らかになっている(*2)

(*1)NTTコム リサーチ「第7回 企業におけるソーシャルメディア活用に関する調査」(2015)

(*2)Yamaguchi,S.,Sakaguchi,H.,& Iyanaga,K.「The Boosting Effect of E-WOM on Macro-level Consumption:A Cross-Industry Empirical Analysis in Japan」(The Review of Socionetwork Strategies,12(2),2018)

ただ、ソーシャルメディアには「ネット炎上」のリスクが伴う。個人や企業の行為・発言・書き込みに対して、ネット上で多数の批判や誹謗中傷が行われることである。ネット上なので投稿のハードルが低い、可視化されているため仲間が集まりやすい、ボタンひとつで拡散できるなどの特徴がある。

ここ数年間は、日々何らかの「炎上」が起こっている状態だ。ジールコミュニケーションズの発表によると、2017年度には1086件の炎上が発生(*3)。炎上の対象として最も多いのが法人で、250件も発生していた(図1)。2日に1回以上は、企業が炎上している計算になる。

(*3)レピュ研「2017年度 年間炎上リサーチレポートを発表しました」(2018)

図1 2017年度の炎上(1086件)の対象は?
出所/ジールコミュニケーションズ「2017年度 年間炎上リサーチレポート」(2018年)から筆者作成

このような時代において企業は、サービス提供・消費者とのコミュニケーション・従業員教育など、あらゆる場面で炎上をケアしなければいけないのである。

「炎上」で起こるリスクとは?

そもそも、企業はなぜ炎上を防ぐべきなのか。それは、ひとたび炎上すれば、企業のイメージ低下や対応コストの発生だけではなく、時には株価の下落にまで影響があるからだ。

そのひとつの事例が「PCデポ不要契約炎上事件」(2016年8月)。PCを中心に販売する家電量販店PCデポ(ピーシーデポコーポレーション)が、認知症患者と不要な高額のサポート契約を結び、解約しようとした家族に20万円もの解約料を請求したことが明るみになった事件である。きっかけは、当事者である男性(契約者の家族)が、Twitterに証拠の写真付きの投稿をしたこと。ネットメディアだけでなく、マスメディアでも大々的に取り上げられてPCデポに批判が集中し、株価は一時18%安と急落した。

このように、企業のネット炎上と株価の下落は連動している。慶應義塾大学の田中辰雄教授の実証研究によると、炎上の株価への影響は平均でマイナス0.7%。大規模な炎上に限ると5%程度の下落が見られた(*4)。恐るべきことに、この0.7%という数値は、航空機事故や化学爆発による株価の下落幅と同程度のものなのである。

(*4)Tanaka,T.「Effect of Flaming on Stock Price:Case of Japan」(Keio-IES Discussion Paper Series,2017)

炎上が一因となって閉店・倒産に至るケースも少なくない。例えば、多摩市にあるそば店で、学生アルバイトが洗浄機に入った写真などをTwitterにアップして炎上した事例(2013年8月)。そば店にはクレームが相次ぎ、閉店に追い込まれただけでなく、同年10月には破産してしまった。

このように、対象者(社)が社会の表舞台から消えるか、大きな被害を受けるまで燃やし尽くしてしまうのが炎上である(図2)。本当に議論すべきことはあまり議論されないのだ。

図2 炎上のメカニズム
*吉野ヒロ子「国内における『炎上』現象の展開と現状:意識調査結果を中心に」(広報研究,(20),2016)

炎上案件の認知度は約9割

筆者らが2014年にネットユーザー約2万人を対象に実施した調査分析結果によると、炎上している話題に対して書き込みをしたことのある人は1.1%。特に、過去1年間に書き込みをした人(現役の炎上参加者)に絞ると、わずか0.5%(200人に1人)だった(図3)。これを炎上1件当たりに換算すると平均して1000人程度しか書き込んでいないということが推計される。1000人というのは、ネットユーザー全体からするとかなり少ない数だ。

図3 ネットユーザーは炎上している話題にどう関わっている?
筆者らがネットユーザー約2万人を対象に実施した調査分析結果(2014年)

しかし、これをもって「炎上は些末な出来事」と考えるのは早計である。この調査では、「炎上を認知していない人」が7.9%しかいないことも分かっている。つまり、炎上があったことを知っている人は92.1%に上るため、その社会的影響は大きいといえるだろう。

また、「書き込んでいる人が少ない=無視していい意見」というわけではない。偏りはあるものの、そこに生の声があるのもまた確かである。

炎上しやすい3つのパターン

炎上を未然に防ぐには、企業が炎上しやすいケースを把握しておく必要がある。ここでは、2018年に発生した事例をもとに、炎上しやすい3つのパターンを解説しよう。

➊ 規範に反した行為の露呈

まずは、世間一般にいわれる"規範"に反した行為が明るみになって炎上するパターン。ここでいう規範の幅は広く、食材や建築関係の偽装など"法律"に関わるものから、従業員の悪ふざけなど"モラル"が問われる場合までを含める。

重要なのは"違法性"ではない。前述のPCデポ炎上事件でも、法的な問題よりも企業のモラルに批判が集まった。「違法ではない」を根拠に主張を通そうとすると、火に油を注ぐこともあるので注意すべきである …

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