【現役広報が証言】
若手広報担当者 Nさん(20代女性・サービス)
「カンブリアの撮影は大変だから、覚悟しておいた方がいいよ」。当時、Nさんは広報担当になって1年足らず。『カンブリア宮殿』の取材が決まり、提携先企業の広報に協力依頼の電話をかけたところ口々にこう告げられた。
ディレクターからの最初の連絡はHPの問い合わせフォーム経由だった。ちょうど日経本紙で自社の記事が続けて掲載されたばかりで、それを読んだのだという。過去にテレビの取材が入ったことはあったが、15分尺以上の番組と接点を持つのは初めてだった。
ディレクターが局内で企画を通すまでの面談の密度の濃さにも驚いた。社長を交えたヒアリングは計3回。そのたびに何時間も話を聞いていく。そして3週間後、「局内の会議で通った」と連絡が入った。「決まりました!通りました!とお電話いただいたときは、私も社長もガッツポーズで大声を出して喜んでしまいました(笑)」。
社内に広報担当はNさん一人だけ。救いだったのが、社長が全社をあげて協力体制を整えてくれたこと。特命チームを立ち上げ、事業部の社員に出演者の調整やロケに協力してもらった。「それでも週のうち2日はオフィスにカメラが入って、四六時中撮影しているというのは誰も経験したことがない状況。戸惑いもあったと思います」。
撮影を重ね、やがてスタジオ収録の日を迎えた。しかも『カンブリア』はスタジオ収録の後にも再び撮影が入るため、なかなか気が休まらない。「常に〆切との戦いでしたが、とにかく番組側が求める画やストーリーに合う顧客を見つけたり、撮影場所を設定したりすることに一杯一杯でしたね。この経験があったから、テレビ番組の『尺』の感覚を少しずつつかめたのだと思っています」。
撮影は、通算で約100時間以上にも及んだ。オンエア間際まで撮影が続く一方で、やがて社長とNさんは番組出演によって「(自社が)炎上したらどうしよう」という不安に襲われるようになる。放送後にネガティブな反響が起きやしないかと気を揉んだ。
当然ながら、オンエア前に編集された映像を見ることはできない。ディレクターを信頼していたが、社長はしきりにどんなストーリーで流れるのかを気にした。「ディレクターには心配している旨も正直に相談しました。"映像は見せられないけど、方向性はこうなっている"と可能な限り、納得いく説明をいただきました」。
オンエア当日は社員が大会議室に集まって、皆で見守った。「ベテランのディレクターの方だったので、本当に色々なことを学ばせていただきましたね。私自身も広報として他番組に提案できるスキルが身につき、感謝しかありません!採用の応募が一気に増えるなど、事業の成長にもいい影響がありました」。
今も当時の担当ディレクターに会社の状況を定期報告するなど、良好な関係が続いている。
Nさんの場合
ディレクターが連絡をくれたきっかけは「日経の記事を読んで」
ディレクターが企画を通すまでに、短時間で相当な時間をかけて対話をする
週2日ほど、社内にカメラが回っている状況は社員にとってもストレス
一人広報だったので社内で特別チームをつくって社長と連携
通算100時間ほど撮影したおかげで「尺」の感覚をつかめた
当時の担当ディレクターには今も数カ月に1回報告を入れている
若いメンバーが多いベンチャー企業だったが放送後、中途の応募が急増