【現役広報が証言】
ベテラン広報 Sさん(40代女性・メーカー)
「もう絶対にテレビ取材は受けたくない!」。テレビ東京に限らず、長期の番組取材を終えるたび心身ともに疲弊しているというSさん。ところが制作サイドからオファーがあれば断れないし、断らない。約2カ月にわたる密着取材はストレスフルで辛いと分かっているのに、「また受けることになってしまった……」と毎回頭を抱えているそう。「一度でいいから、テレ東の番組に取材されたい」と考える企業にとっては、なんともうらやましい話である。
Sさんは数社の転職を重ねていることもあり、とにかく取材対応の場数が凄い。ざっと数えると『ガイアの夜明け』3回、『カンブリア宮殿』2回。『WBS』は数えきれないほど。制作会社からのヒアリングやプレ取材を経て、最終的に局側に提案が通らなかったことも多く、「採用率は50%くらいでしょうか(笑)」と打ち明ける。
もちろん番組サイドの関係者ともつながりがある。「広報として駆け出しのころ、同業の知人が『テレ東のディレクターと飲みに行くから来る?』と誘ってくれたのが最初の接点でした。そこで知人がすごい剣幕で企画を売り込んでいたのをよく覚えています。最近も若手の広報の方に“プロデューサーを紹介して”と相談されることもありますが、局や制作会社の関係者と飲んだからといって企画が通るわけではない。これが現実だと思います」。ちなみにその知人の会社は未だかつて、一度もテレビ東京の主要番組に取り上げられたことはないそうだ。
では、なぜSさんのもとに多数の取材オファーが舞い込むようになったのか。それはひとえに「日経本紙に出まくる」という作戦が奏功したからではないか、と自身では分析する。実際に番組関係者に聞くと、「日経の記事を読んで問い合わせた」という声が多かったからだ。
「一度つながりを持ったスタッフの方には定期的にメールを送ったり、ランチをしたりして情報交換はします。ただ、食事や飲みの場から即、企画が通ったという経験はありません(笑)。むしろ日経で記事が出る回数が増えてから取材依頼が増えた、という実感があります。日経産業でも日経MJでもなく、絶対に日経本紙がいい。やはり制作サイドの情報源として最も重視されているのだと思います」。
そんな百戦錬磨のSさんが経験上、得た教訓がある。それは「番組側が撮りたいものと、広報が撮らせたいものは絶対に一致しない。取材する側の強い要望があっても、広報としては毅然と対応すべき」ということだ。
「企画が通ってからは本当に大変です!広報がどんなに気を使っても、協力している社員や社長が制作側の要望を聞きすぎてしまったり、顧客のプライバシーへの配慮が必要だったり。宣伝ではないのでコントロールができないのは分かっていますが、線引きが難しい。撮影期間中は、もうずっと胃が痛いですね(笑)」。