この世には「バカ」がつくほど愛される、PR上手な商品・サービスがある。そんな「PRバカ」と呼べる存在を求めて、筆者が仕掛人を訪ねていきます。
File:9 日本城郭協会
価値を見つけること、その価値を伝えること。そして、伝えられた価値が認知され人が動くこと。つまり、広報が目指すべきことをほぼボランティア集団で成し遂げている組織があります。
それが今回取材した、日本城郭協会です。ほとんどボランティアで構成される公益財団法人なのですが、この協会が仕掛けている日本100名城、続日本100名城に認定されたお城に多くのお城好きが訪れています。
また、数年前から始まった日本城郭検定は2万人以上の受験者がいるのです。学生のときは試験を受けるのが嫌いだったのに、お金を払って受けるなんて……。かくいう私も城郭検定2級と3級に合格しました。クリスマスの時期に横浜で開催される「お城EXPO」には2万人もの人が集まり、日本100名城シリーズの書籍は累計60万部のベストセラー。この団体、一体どうなっているのでしょう。潜入調査してきました。
誰も来なかった場所が名所に
五反田の雑居ビルの一室に日本城郭協会はありました。失礼な表現ですが、儲かっているとは思えない。単刀直入に日本城郭協会の加藤良明常務理事にお伺いしたところ、「公益財団法人なので儲けないという趣旨で運営しています。例えばこのお城の模型も博物館からの依頼などがあれば貸し出すのですが、ほぼ送料などの実費をいただくのみです。1956年に写真家の井上宗和氏が日本城郭協会を創立、1967年から文部科学省の認可を受け、現在は公益財団法人日本城郭協会として活動を続けています。その目的は学術研究と文化交流でした。ですから、商業目的ではない運営をしています」。
認可を受けてから40周年を記念して「日本100名城」を認定し、50周年を機に「続日本100名城」を選定したそうです。
2018年4月6日の「城の日」から続100名城のスタンプラリーが始まりました。50周年の記念事業ということで観光客を呼び込むためのタイアップがなされたわけではなく、あくまでも学術的な価値だけで認定作業を行い、決まったあとに「認定したのでスタンプを置いてください」と各自治体に連絡したのだそう。私はてっきり世界遺産のような誘致活動があったのかと思っていたのですが、突然の愛の告白みたいな通知だったのですね(笑)。
続100名城の認定を受けてスタンプが設置されている城跡に足を運んでみると、正直なところ整備が充分ではないところも多い。ですが、そんな辺鄙な場所にスタンプ帳を携えた人が平日でも訪れるのです。例えば、徳島県の勝瑞(しょうずい)城は下に埋まっている遺跡を発掘している最中なのです。そんな珍しい場所ですからまだ観光整備はできていないのですが、続100名城に認定されたということで観光客が訪れていました。
同じく徳島県の一宮城も発掘中でしたが、山頂に立派な石垣が残っています。実は、その隣の四国八十八箇所十三番札所の大日寺のほうが有名で、こちらにはたくさんの人が訪れています。四国八十八箇所を回る人は多いのですが、今までは一宮城を見る人は少なかった。日本城郭協会が認定をしたことによって、一宮城も観光地化していっているのです。
加藤さんもおっしゃっていましたが、100名城はいきなり選定しているので、受け入れ体制ができ上がっていない場所も多いようです。また、お城は地域の教育委員会の管轄ですが、観光は行政の観光課が担当するため、問題もあるのではと推察します …