新聞や雑誌などのメディアに頻出の企業・商品のリリースについて、配信元企業に取材し、その広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウをPRコンサルタント・井上岳久氏が分析・解説します。
デザインや文章など得意分野のある人が、主にネットを介して仕事を請け負う「スキルシェア」が活性化しています。その分野の牽引役ともいえるココナラ(東京・ 五反田)を取材しました。
代表取締役の南章行さんは、三井住友銀行から企業買収ファンドなどを経て、オックスフォード大に留学しMBAを取得。これまで拡大成長を目標に進んできた日本社会がこれ以上の成長を見込めなくなった現代で、人々が何を生きがいとして生きていくかを考えたとき、それぞれの人が得意分野で活躍できる社会を実現する「スキルシェア」にたどり着いたそうです。
とはいえ、スキルシェアの概念がなかった2012年の創業当時、事業は難航続きで、資金調達がギリギリの時期が続いたといいます。それが軌道に乗り始めたのが2014年以降のこと。スマホが人々の手に渡り、フリマアプリでの個人間売買が浸透してきたことが大きな要因でした。
モノを売り買いすることが当たり前になれば、それをスキルに当てはめても抵抗はなくなります。そうしたシェアリングエコノミーの急拡大とともにスキルシェア市場も拡大し、一般社団法人シェアリングエコノミー協会による「シェアリングエコノミー認証制度」の導入など追い風も吹いています。同業他社が林立する現在、ココナラは会員数80万人、取引成立200万件以上と、業界最大規模を誇っています。
そのココナラが最近リリースしたのが、2018年2月の「PRO認定制度」と5月の「見積り・カスタマイズ機能」の2件。これはどちらも、法人がビジネス利用をするのに便利な機能です。ビジネス利用の際、情報漏洩の問題には神経を使いますが、PRO認定制度はスキルや実績だけでなく、機密保持についても信頼できる人たちを認定しています。
従来、パッケージになっていた作業と価格をカスタマイズできるようにし、社内で予算を通すために見積りを取れるようにしたのもビジネス利用に対応してのこと。つまりそれだけ法人利用が増えてきているのです。
「個人で利用して便利だと感じた方が、法人で利用したくても制度がなく使えないケースが多いという調査結果に対する改善のために追加した機能です」と、マーケティンググループ広報・PRリーダーの古川芙美さんは説明します。これで法人利用の増加が進めば、さらなる市場の拡大が期待できます。
絶妙な配信のタイミング
ではリリースを見ていきましょう。まず、PRO認定のリリースで感じたのが(ポイント1)「配信時期を練りに練っている」ということ。ネット事業であるため、必然的にネットメディアへの配信も多くなりますが、ネットメディアの特徴として、配信したその日に載ってしまうことも考えられます。けれど、このリリースには、PRO認定者を集めながら、同時にPRO認定制度を広める狙いがあり、一般的なリリースの配信基準である「発売2カ月前」では早すぎるのです。
もしメディアで取り上げられても、まだ制度もサイトもスタートしておらず、売上に結びつきません。反対にサイト公開日にリリースしたのでは遅すぎて、たくさんのメディアに載るまでの期間は低空飛行になってしまいます。そこでティザーサイトだけ用意し、実質スタートの20日ほど前にリリースしたのは絶妙な配信タイミングでした。
次に、(ポイント2)「会員数70万人」「取引成立件数200万件」など、リリースの随所に規模感を盛り込んでいます。この数字を見れば、メディアも取材してみようかと興味を持ちます。
以前は、キリのよい数字がくる度に達成リリースを配信していたそうですが、それをやめて今では全リリースにこうした要素を入れています。「スキルシェアについて聞くならココナラへ、という流れを形成したい」という、古川さんの狙いがあります …