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プレゼン力診断

「トッププレゼン・マトリックス」で御社トップの強みを活かそう

永井千佳(トップ広報プレゼン・コンサルタント)

本誌で2014年から「プレゼン力診断」を連載中の永井千佳氏による総集編レポート。経営者を4タイプに分類したマトリックスの最新版と、トップの強みを活かす考え方についてまとめた。

製造業大手A社のトッププレゼンでのこと。いかにも生真面目そうな社長が演じる派手なパフォーマンスは、さながらTEDのよう。しかし客席から見ていて、一度も視線が合わないことに気がついた。目線の先を見ると、客席最後方に設置された複数台の巨大プロンプターがあり、社長はその文字を一言一句正確に読み上げていた。

別の日、B社の新商品発表会でのこと。冒頭に登壇したトップは存在感がなく、プレゼンもインパクトが弱かった。しかしその後の事業部長や外資系パートナー企業社長のプレゼンは見事に連携。トップは微笑みながら自然体でその様子を見ていた。あえて自分の存在感を消し、「引き立て力」という強みを発揮した、素晴らしい会見だった。

「トップにリーダーシップを持って強く語ってほしい」と相談に来る広報担当者は多い。そして「TEDプレゼンこそ、トッププレゼンのあるべき姿」と考え、強いリーダーを演じさせる会見が目立つ。しかしB社社長がTEDスタイルでプレゼンをしても、トップや企業の強みは活きない。

「TEDスタイル」に走る前に

今回紹介する「トッププレゼン・マトリックス」(図1)は、数多くの会見を取材してきて、「トップの個性に合わせると、広報の説得力が高まるのではないか?」という問題意識を持ったのがきっかけで考え出したものだ。

図1 トッププレゼン・マトリックス 2018年版
筆者作成

「感情重視-ロジック重視」「自然体重視-個性重視」という2軸で整理し、トップを「パッション型」「信念型」「ロジカル型」「優等生型」の4タイプに分類している。どのタイプがよい・悪いということはない。各々に強みと課題がある。これを考えることで、訴求力あるプレゼンが可能になる。

本誌2016年10月号でこの考え方を紹介したところ、数多くの広報担当者から反響をいただいた。このマトリックスで自社トップのプレゼンを分類してみると、当初の思い込みとはまったく異なる結果になることが多いという。これはトップ本来の強みを活かしていないということだ。「無理にスタイルを変えなくていい」と分かれば、トップは自然にメッセージを語れるようになり、説得力も高まる。

今回紹介する2018年版では、本誌2016年10月号から2018年9月号の連載に登場したトップを厳選して分類した。あわせて本記事では、その中から4人を選んで、トップの強みをいかに活かしているかを「バリュープロポジション」の考え方で分析している。

提供できる独自の価値は何か

改めて、「トッププレゼン・マトリックス」各タイプ別の傾向と対策とともに、代表例として4人のトップを紹介していこう。ここで用いたいのが「バリュープロポジション」という考え方だ(図2)。バリュープロポジションとは「お客さまが求めていて、自分たちだけが提供できる価値」のことだ。マーケティング戦略ではこのバリュープロポジションが、あらゆるマーケティング施策の出発点になる。

図2 バリュープロポジションを考え抜き、トップの強みを活かせ!
筆者作成

トップ広報も同じだ。自分たちができることだけ話しても、聴き手が知りたいことでなければ、相手には届かない。さらに相手が聴きたいことでも、ライバルも語れるメッセージであれば、聴き手は感動しない。聴き手が求めていて自分たちしか語れないメッセージを考え抜いて市場に訴求することが、トップ広報では必要だ。

だからこそ、御社のトップしか語れないバリュープロポジションを見極め、トップ自らがバリュープロポジションを語ることが求められる。

【A パッション型】 トップマーケターの独壇場

湖池屋・佐藤章社長の場合

パッションは熱伝導する。「パッション型」はプレゼン後の囲み取材が盛況になることも多く、メディアに注目されやすい。冒頭から聴き手との距離を縮め、自分のペースに持ち込むと力を発揮する。現場目線を前面に押し出すのも有効だ。反面、過熱しすぎて話が長くなりがちだ。よいプレゼンでも時間超過は確実に満足度が下がる。資料は短めに作っておくことも必要だ。

優れた「パッション型」の代表格として真っ先に挙げたいのが、湖池屋の佐藤章社長だ。2016年11月に行われた発表会では、トップ就任直後の佐藤社長が、新商品である「KOIKEYA PRIDE POTATO」を引っさげて登壇した。トップマーケターならではの見事な仕事ぶりだった。

佐藤社長はキリンビバレッジ時代、「FIRE」や「生茶」を企画し、大ヒット商品に育て上げた実績を持つ。ビジネスの現場で鍛え上げられてきた実践的なマーケティング・プロフェッショナルなのだ。プレゼンでも自身の強みであるマーケティング戦略を中心に、存分に自分の言葉で話す独壇場となった。そんな佐藤社長の「バリュープロポジション」を見てみよう。

ポテトチップス業界では、長い間、激しい価格競争が行われていた。同業他社は安さを競い合ってきた。しかし佐藤社長は「消費者が期待しているのは安さだけでないはず。実は美味しくて新しいポテトチップスを求めているのではないか」と考え、市場を分析した。当日の会見ではこの分析結果も紹介された。

この潜在的なニーズに応えるために、佐藤社長自ら商品プロデュースに徹底的に関わり、企画したのが新商品「KOIKEYA PRIDE POTATO」だ。会見でも「湖池屋の伝統を活かし、今までにない高級志向のポテトチップスを創り出し、提案する」というバリュープロポジションに沿った形で行われた …

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