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広報担当者のためのマーケティング発想入門

NPO法人の広報とビジネス 離島経済新聞が目指す未来像

片岡英彦(東京片岡英彦事務所 代表/企画家・コラムニスト・戦略PR事業)

「マーケティング発想のPR」を実践している事例のインタビューを隔月でお届けする本連載。今回は離島専門メディアを運営するNPO法人「離島経済新聞社」の鯨本あつこさんが登場します。

(右)離島経済新聞社 統括編集長 鯨本(いさもと)あつこ氏
(中)離島経済新聞社 営業担当 多和田真也氏
(左)片岡英彦(筆者)

皆で面白いメディアをつくりたかった

片岡:鯨本さんが率いる「離島経済新聞社」はNPO法人なんですよね。

鯨本:はい。2010年にメディアを立ち上げ、2014年にNPO法人となりました。今は常勤で7人のスタッフがいます。「離島経済新聞」というウェブメディアと『季刊リトケイ』というフリーペーパーを発行していて、「日本の離島地域が健やかに継続していくよう、明るい島の未来をつくるための情報を発信する」という編集方針を掲げています。日本には無人島を含めて6800の島があり、そのうち人が住んでいる島が約400。私たちはそんな有人離島とそこに住む人々にフォーカスしています。

片岡:鯨本さんご自身は、離島の出身というわけではないんですよね。

鯨本:そうなんです。九州の内陸盆地で生まれ育ったので、日本に6800も島があるなんて知りませんでした。元々、私はローカルの情報誌やビジネス誌の編集者だったのですが、2010年に「世田谷ものづくり学校」で開催されていた社会人スクールに通いはじめ、そこで知り合った編集者仲間やデザイナー、アートディレクターと「何か面白いメディアをつくりたいね」という話で盛り上がったんです。

離島との出会いは、スクールの同級生に広島県の大崎上島(かみじま)に移住する方がいたことがきっかけです。当時はネット検索しても島の情報がなかなか出てこなくて。事前に分かったのは「瀬戸内海にある人口8000人の島」ということくらいでした。

実際に島へ行ってみると、派手な観光施設やコンビニはないけど、とにかく人が健やかで楽しそうだったんです。住んでいる方々も「自分の島は宝島なんだ」とおっしゃる。そんな様子を目の当たりにして「離島にはこんなに楽しそうな人たちがいる」ということに驚きました。そこで生まれたのが「こんなに素敵な有人離島が日本に400以上もあるなら、日本の離島をテーマにしたメディアがあったら面白いんじゃないか」というアイデアでした。

片岡:当時はここまで続くプロジェクトだと思っていましたか。

鯨本:正直なところ、ここまで続くとは思っていませんでした(笑)。はじめは市場やビジネスモデルも見えていませんでしたし、今も組織を存続させるための苦労はつきません。でも、仲間との仕事や島の人たちとの交流はひたすら楽しく、島の住民や読者、国や自治体や企業の担当者など、幅広い人に応援していただいているので、辞める理由なく今に続いています。

片岡:「有人離島」というのは狭いカテゴリーのようでいて、実は北海道から沖縄まで400も島があるということですよね。特定のエリアではなく「離島」で区切るというのは、難しさもあったのではないでしょうか。

鯨本:離島を含めると日本はかなり広いので、そういう意味では難しいことをしているなと感じています。実際、日本列島には北から南まで3000キロにわたって有人離島があり、排他的経済水域を含めた海の面積では日本は世界6位になるんです。でも、島のことはほとんど知られておらず、私自身も離島経済新聞社を立ち上げるまで、離島地域に「離島振興法」という独自の法律があることすら知りませんでした。

島には、東京にあるようなものはないけれど、楽しそうに生き生きと暮らしている方がたくさんいらっしゃいます。そこには目立たなくても大事なニュースがありますし、島の営みを継続していくために人の目にもっと触れてほしい取り組みもある。自然や産業や文化を一生懸命守っている方々もたくさんいる。まだまだ知られていない宝物を一つひとつフィーチャーしていけたらいいな、と思っています。

5月に発行した『季刊リトケイ』では離島留学制度を特集。鹿児島県が推進する山村留学制度について紹介するページでは、南種子町と三島村、奄美大島南部の瀬戸内町の事例を取り上げた。

自然な形でリモートワークに

片岡:先ほど「まさかここまで続くとは思っていなかった」とおっしゃっていましたが、ゼロからメディアを立ち上げるというのは大変なことですよね。どんな仕組みで運営してきたのでしょうか。

鯨本:経営面ではメディアの発行と、企業や自治体との地域づくり事業の両輪で組織を回しています。メディアの流通面では『季刊リトケイ』は年4回刊行しており、全国600超の飲食店や港、空港、宿泊施設、書店、公共施設などに設置し、NPO法人への寄附者や、サポーター会員の皆さんにもお届けしています。

以前は「音楽」「島の幸」「方言」など様々な切り口で、全国の離島から注目すべき話題を集めて特集を組んでいましたが、ここ1~2年で少しずつ内容が変わってきました。日本の島々が健やかに継続していくよう、離島の地域づくりのヒントになるような情報発信を意識しています。最近だと「愛しき島の未来を築く島づくり」(2018年3月)、「島の手仕事」(2017年11月)、「島と結婚」(同8月)といった特集を組みました。

片岡:発行を続けてきて、手応えはどうですか。

鯨本:狙い通り、地域づくりのヒントとして読まれているような反響をいただくことが増えました。地域づくりを意識して以来、力を入れているのが、全国の離島地域の人口変動の定点観測です。作業としては大変なのですが、3カ月に1回、統計データを独自に集計して更新しています …

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