社員の健康管理や推進に関わる業務は総務人事管轄とする企業が多い。社内コミュニケーションを担う広報部門の役割について、専門家が解説する。
健康経営に関する企業コミュニケーション施策は、ここ3~4年で相談が増えてきました。「働き方改革」「SDGs」に比べると局所的な動きではありますが、力を入れる企業とそうでない企業の二極化が進んでいるという印象です。従来から社内で取り組んできた運動会やマラソン大会などのスポーツイベントを健康経営の文脈に紐づけてしまう、といったケースも多いですが、本腰を入れる企業ではいかに"全社運動"に転換していくかが課題となっています。
社内の参加意識を高めるには
従業員の健康管理というと人事部門の管轄となる企業が多いですが、全社への周知徹底や参加率を高める上では広報による社内コミュニケーションの推進、社内報やイントラネットの活用は欠かせません。
例えばアサヒ飲料では、スニーカー通勤を推奨しています。スポーツ庁による官民連携プロジェクト「FUN+WALK PROJECT」への参画を受けた取り組みで、3月には鈴木大地スポーツ庁長官が視察に訪問した様子が多くのメディアで報じられていました。コーポレートコミュニケーション部では自社のマテリアリティ(重要項目)の見直しにも着手し、健康に関する項目を盛り込んでいます。
ローソンも竹増貞信社長が自らCHO(チーフ・ヘルス・オフィサー)となり、健康経営に注力している企業のひとつです。詳しくはコーポレートサイトにも紹介されていますが、一斉にウォーキングや朝食摂取、生活リズム管理などに取り組む「元気チャレンジ」などの施策もあります。上位者などにはPontaポイント付与というインセンティブもあり、参加者が1000人を大きく超えています。
「やらされ感」払拭が課題
社内報で「健康」に関する話題を掲載する企業も増えていると思います。ただし一方的なお知らせであることが多く、従業員の行動につながるコンテンツづくりがポイントとなります。
例えば4月にリニューアルした日本航空の社内報『ROUTE』では、メタボ対策や食事環境などに関する特集を組んでいました。職種別に1日の食事を栄養士の方などがチェックするという内容で、本腰を入れて社員を巻き込んでいきたいという積極的な意向が伝わる好例です。
特に「健康」の分野は個々人のプライバシーに踏み込むため義務感が伴ったり、"やらされ感"が拭えずモチベーションが上がらなかったりといった事態に陥りがちです。そのような障壁をクリアするのは、ポジティブな文脈に転換していく広報の社内コミュニケーションの力です。健康経営に積極的な企業こそ、広報も力を発揮していくことが求められるはずです。
(談)
- 親会社が積極的に健康経営を打ち出し、情報発信を行う中、子会社の立場からどう合わせて発信するか(電機・精密機器)
- 社会的な関心が高まっているので、社外に対してどのようにアピールできるか、検討したい(電機・精密機器)
- 社内のイベントに参加できない従業員もいるため、動画で内容をシェアしたり、メールやイントラネットで共有したりと工夫が必要(金融)
- 「健康経営」は継続が大切であり、いかに継続的に意識させるかが重要。人事と連携し、イベントや社内報、社内イントラを通じた情報発信を心がけている(IT・情報通信)
- 社内報の中で健康をテーマにした特集を実施、当社の有所見者率や高ストレス者率を紹介。社員の健康への関心を高めるとともに、改善に向けた取り組み事例を掲載(電機・精密機器)