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広報担当者の事件簿

広報が取り組むべき「本気の危機管理」とは?

佐々木政幸(アズソリューションズ 代表取締役社長)

    にぎやかなイベント会場が一転「まさか」の見落としが招いた悲劇〈前編〉

    【あらすじ】
    今年で5回目を迎える「ヨコハマハーバーフェスティバル」。2日にわたるイベントの初日には、神奈川県知事の北野たけるや横浜市長らが登場するオープニングイベントを開催。会場となる横浜ハーバービューホテルの広報担当・佐伯瑛太も進行を見守っていたが、オープニングイベント終了直前、会場が爆風に包まれる。

    襲いかかる爆風

    ──午前五時十一分

    カウンターには誰もいない。ホテル業界にとって七月と八月は猫の手も借りたいほどの繁忙期だが、まだ寝静まっている時間である。地上二十三階地下二階、客室数九七七室を誇る横浜ハーバービューホテルの稼働率は年間を通して八十五パーセント。夏休みだけが忙しいということはない。ただ、この時期は宿泊客以外も涼を求めてホテルに入ってくるため、日中から大混雑する。警備課に配属されて十二年、安藤肇はこの巨大ホテルにほんのひととき訪れる静寂が好きだった。

    一年で最も忙しい時期が始まっている。ついさっき、横浜港を隔てた房総半島から太陽が顔を出した。「今日も暑くなりそうだな」ロビーの窓から眺め、呟く。客がいる時間帯にできることではないが、今、この空間には自分しかいない。独り占めできる時間に浸っていた。

    「ん?」視線の先がわずかに光った。昨夜遅くに降った雨が、ホテルの庭一面を覆う芝生にも潤いを与えていた。「葉先に溜まった水滴が光ったんだろうか」。庭の横にはイベント用の白いテントが張られ、ステージも見える。今年で五回目を迎える"ヨコハマハーバーフェスティバル"は今日と明日の合計で約十万人の人出が予想されていた。忙しい時期の中でもこの二日間は別格である。あと二十分で巡回を終えなければならない。わずかな光を確認する時間などない。安藤は、芝生とは逆方向にある正面玄関へ足を向けた。

    ──午前六時五十七分

    「おはようございまーす!」峯下一馬がトラックの荷台から荷物を降ろしていると、後ろから声がかかる。イベント用の音響機材を積み込んだ十トントラックを運転し、二時間前に着いてしまった峯下は車内で仮眠をとった。ホテルからは七時に作業開始と決められていたからだ。声をかけてきたのは、作業開始に合わせてイベント広場に着いた戸塚みず穂だった。「遅いぞ」「えー、そうですかぁ?」コンビを組んで四年になる二人の朝の挨拶である。

    「アンプはそっち。マイク三本!」社長である高頭正平の声が飛ぶ。「白テントに運んでくれ」戸塚が台車でアンプを運ぶ。アンプ一式で重さは五十キロほど。女性の戸塚にとって運びやすい機材ではなかったが、人出がいないのだから仕方がない。「配線もよろしくな」峯下の声が追いかける。「人づかいが荒いですよ」と言いつつコードを地面に這わせていく。

    「芝生を傷めないように気をつけろよ」「回りこませます」芝生の上にコードを這わせれば電源までの距離的なロスはないが、それができない以上はホテルの壁沿いに伸ばしていくしかない。「今年もすごい人出なのかなあ」ホテルの海側にある遊歩道に目をやり呟く。

    「なんだろう?」芝生が広がる庭の真ん中あたりで陽に反射した何かが光っている。気になるので確認にいきたいが、芝生に足を入れることを躊躇ってしまう。金属の欠片にも見えるがはっきりとは分からない。ホテルの担当者があとで見つけるだろう、と戸塚は電源までコードを這わせていった。

    ──午前七時五十五分

    JR桜木町駅は朝から混み合っていた。日ごろは巨大なオフィスビルを目指すビジネスパーソンの姿が目につくが、夏休みは学生たちや家族連れが押し寄せる。駅前広場のあちらこちらで子どもたちの笑顔が弾けている。「パパこっちだよ」小学校低学年と思しき男の子が父親の手を引き、先を急かしている。「急いだら危ないぞ」父親が優しく声をかける。横浜ハーバービューホテルの広報を務める佐伯瑛太は、小学校の夏休みに両親と行ったテーマパークを思い出し微笑んだ。

    「今日も忙しくなりそうだな」オープニングイベントが始まる午前十時にはテレビ局や新聞社、雑誌社が来場することになっている。事前に案内を送付し、十八社から取材希望があった。ほかにも今日と明日でマスコミ取材が五本入っている。すべて今日から始まるヨコハマハーバーフェスティバル関連の取材だった …

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