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カンヌライオンズ2018レポート

変革のカンヌライオンズ PRに問われる本質的成果

井口 理 (電通パブリックリレーションズ 執行役員・ビジネス開発局局長)

本年のカンヌはカテゴリーの統廃合や審査方法など、大幅に刷新された。勢いを増す「ソーシャル・グッド」の領域、パブリック・アフェアーズの取り組みなど広報のプロなら押さえておきたいPRカテゴリーの入賞作を中心に、トレンドを探る。


2017年、各所から吹き出した「内容重複のカテゴリーが多い」「そのため開催期間が長い」「費用負担が重い」など不満の声から、大幅な構成変更を余儀なくされたカンヌライオンズ。しかし、手がけてきた仕事を世界で評価してもらう、あるいはグローバルな成功事例を学ぶ場として、まだまだ価値あるイベントと言えるのではないだろうか。

そんな中、主催者側の試みとして大きな変革に見えたのが現状に沿わないカテゴリーを廃止したことと、意味合いの近いカテゴリーを「トラック」という括りで9つに分類したことだ。前者の流れで従来の「サイバー」「インテグレーテッド」「プロモ&アクティベーション」カテゴリーが廃止された。これは「イマドキの仕事内容には、必ず要素として盛り込まれているもの」という認識から、独立カテゴリーとしての意味合いがなくなってきたことを示している。

そして新たにお目見えしたこの「トラック(Tracks)」という考え方。これが今後、評価基準にどのような影響を及ぼすのかがとても気になっていた。ちなみに、「PR」カテゴリーについては、「クリエイティブデータ」「メディア」「ダイレクト」「ソーシャル&インフルエンサー」とともに「リーチトラック」に括られた。

伝え方よりも「成果」に重み

このトラックが意味するところは、「成果につながる意味ある接触」を司るソリューション群というところか。これはこれらの部門が持っていた従来の「情報の伝え方のアイデア」を評価する視点ではなく、その接触の先にどのような成果が獲得できたのか、すなわち「意味ある成果を生み出すコミュニケーション活動」としてこれらを新たに評価していこうという宣言であろう。

PRカテゴリーで言えば、評価基準となる「Strategy」「Execution」「Idea」「Impact&Results」の4つのうち、比重で3割を占める「Impact&Results」という部分をしっかり見ていこうということ。そもそもこの評価基準の比重はPRカテゴリー独特のもので、「Idea」比率が高いその他のカテゴリーと異なり、「Strategy」「Results」の比重が高い。

この考え方がカテゴリーを拡大して、基準として重みを持った、ということではないだろうか。「作って満足」「伝えて満足」じゃダメだよ、と。

何のためにそれをやっているのか、「社会を良くするため」なのか、はたまた「企業の各種目的を達成するため」のものなのか、その目的(Purpose)をしっかりと提示し、その活動を通じて最終的にそのゴールに近づけたのかどうかをしっかり見せてくださいよ、ということ。そういうコミュニケーションの本質的価値がさらに見直された本年だったのだろう。

ちなみに余談ではあるが、先述のように既存カテゴリーで親しみのあるものが3つ減ったものの、また新たなカテゴリーが登場し、結局のところ昨年までの24カテゴリーが26カテゴリーとなり、さらに増えてしまっているのはご愛敬だ。

2018年を席巻したSDGs

さて、まずはここ5~6年のカンヌを席巻している「ソーシャル・グッド」についてだが、今年の開催に関しては翻って「クリエイティブ力」をきちんと評価しようという方針が事前には漏れ伝えられていた。実際、なんでもかんでも「ソーシャル・グッド」に紐付けてくるエントリーは、PRパーソンから見ればその「Relevancy(相関性、関係性)」が不足しており、「なんでこの企業がそれをやるのか」が腑に落ちずとても気持ち悪く見えていたものだ。

これらを整理するため、「グッド(Good)」というトラックも設定され、「グラス(Glass:女性のエンパワーメント)」「サステナブルデベロップメントゴール(SDGs)」というカテゴリーがここに包含された。すなわち、その種のものはこちらに集約し、「その他の部門におけるそれぞれのクリエイティブ」を評価させたいという意図であったろう。

しかし蓋を開けてみると、相変わらず「ソーシャル・グッド」なエントリーが多数のカテゴリーで上位入賞を果たすこととなった。まさに要素としては外せない、評価基準のコアエレメントとして定着したと言っても過言ではないだろう。もはやその目線が盛り込まれていることは「重要」というよりも「必須」であり「当たり前」なのだ。

この視点を一度持ってしまうと、企業によるマーケティング・コミュニケーション活動などはどうしても小さな取り組みに見えてしまうため、同じ土俵で戦うのが難しくなってくる。一方で、どのような企業活動も理想の世の中の実現に寄与するべき、という昨今の社会的通念が大きく影響しているわけでもあり、アワードという一種のお祭りであったとしてもそれを一概に否定できないということになろう。

そんな中、PRカテゴリーでグランプリを受賞したのが「The Trash Isles(ゴミの島々)」(イギリス)だ。太平洋上に浮かんだ大量のゴミの塊を「島」に見立てて、それを国として扱うことによって世間の耳目を集めるといったアイデアだ。

その面積はフランス国土に匹敵するという。仕掛け人は、イギリスの環境保護団体「PLASTIC OCEANS」とニュースサイトの「LADBIBLE」。国連がここ数年提唱してきたSDGsへの取り組みといった社会潮流に乗って、見事最高賞を獲得した。

実はこのエントリーは「デザイン」カテゴリーでもグランプリを受賞するなど、多岐にわたる評価を得ているのだが、2017年の女性のエンパワーメントといったテーマ同様、このカンヌにも確実にトレンドというものが存在しているのは間違いないだろう。

ちなみに「デザイン」カテゴリーは最近の評価基準として「Results(成果)」重視の傾向が強く、「PR」とはトラックが異なるものの、「PR」と「デザイン」がカテゴリーとして近いエッセンスを持ち始めているのではないかと感じている私には納得するものがあった。

    PLASTIC OCEANS/LADBIBLE
    「The Trash Isles」(イギリス)

    ゴミの塊を島に見立てる仕掛け

    PR、デザインのグランプリ。ゴミの塊が浮遊するエリアを国に見立てて様々な情報発信を仕掛けていく本エントリーは、国としての認定を国連に提訴することから始まり、本物の国に見立てて作成された土地の権利書やパスポート、貨幣、国旗など、サイト上で国民登録すれば入手できる仕組みをオープン。

    ここにアル・ゴア氏含む環境意識の高いセレブリティがこぞって参加しSNS上でもコメントを発信、その拡散力をもって問題の顕在化を達成。仮想ストーリーではあるが、インフルエンサーを自然に、自発的に巻き込む仕組みづくりが長けていると言えよう。

エントリー制約が競争を阻害?

ひとつ残念なのは、同様に「SDGs」を意識したエントリーである「Palau Pledge」(オーストラリア)がPRカテゴリーで受賞しなかったことだ。入国スタンプに環境保護に関する誓いを立てさせるサイン欄を組み込み、自分ごと化から人に伝えたくなる仕組み化が最低限の労力で組み立てられている好事例であった。

同エントリーは、まさに王道の「サステナブルデベロップメントゴール」を中心に「ダイレクト」「チタニウム」でもグランプリを獲得している。そこでよくよく見てみると、「ブランドエクスペリエンス&アクティベーション」でゴールド、「メディア」でシルバー、「デザイン」でショートリストという受賞歴が。そう、どうもそもそも「PR」カテゴリーへのエントリーがなかったようなのだ …

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