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カンヌライオンズ2018レポート

日本からLDHが登壇、HIRO氏らがセッション 企業広報とカンヌライオンズ

本田哲也(ブルーカレント・ジャパン 代表取締役社長)

2017年、PR部門の審査員として参加した本田哲也氏は今年のカンヌをどう分析するのか。アジア勢ではテンセント、アリババといった中国企業の飛躍的なプレゼンス向上のほか、日本から登壇したEXILEら人気グループを擁する「LDH」のセッションなどをレポートする。

2017年はPR部門審査員を務めたカンヌライオンズ。2018年は2015年に続き、公式スピーカーとしての参加となった。後述するようにEXILE、三代目J Soul Brothersらを擁する「LDH」のセッションを当社ブルーカレント・ジャパンでホストし、セッションモデレーターとして登壇する機会に恵まれた。今月のコラムは、僕の感じた今年のカンヌ、とくに「企業広報とカンヌ」をテーマとしてお届けしよう。

整理統合でカンヌは変わった?

今年のカンヌは、「肥大して営利主義に走りすぎ」といった批判を受けて、フェスティバル自体が大幅に刷新されたものとなった。この10年以上にわたって、業界の進化とともに部門やカテゴリーは増えつづけ、最近のカンヌはまるで増改築を繰り返した巨大な建物のようだった(PR部門が新設されたのも2009年からだ)。

それを整理統合し、今年からは全体が9つの「トラック」で運営された。9つのトラックとは、「リーチ」「コミュニケーション」「クラフト」「エクスペリエンス」「イノベーション」「インパクト」「グッド」「エンターテインメント」「ヘルス」。あらゆるアワードやセッションはこのいずれかに属する構造で、ちなみにPR部門は「リーチ」の傘下だ。

「長すぎる」と批判された1週間の会期も今年から5日間に短縮され、不慣れな9トラックに短期間で接することになった参加者からは、戸惑いの声が少なくなかった。このあたりの詳細は、カンヌ全体をレポートした他の記事に譲るとして、今回僕が強く感じたことがある。それは、カンヌにおける中国企業のプレゼンスだ。

中国企業は、実に戦略的にカンヌを活用しようとしている。ビジネスの場というよりも、むしろ企業広報や企業ブランディングの観点からである。数年前から、テンセント、アリババ、ファーウェイ、JD.comなどのグローバル中国企業はカンヌ参画を開始。実は昨年のカンヌでは、中国企業や関心のある参加者を対象にした「チャイナ・デイ」も会期中に開催されている。それが今年は一気に加速した印象だ。

例えばアリババは、明確に企業ブランディングの意思をもってカンヌに参画している。それは、会場内のブランド広告出稿に留まらず、CMOのクリス・タン氏自らがメインステージでのセッションに登壇したり、会期中を狙って関連プレスリリースを打ったりと非常に立体的だ。

主な狙いは、2017年秋に提供を開始した「Uni Marketing」コンセプトの広報。中国ネットユーザー5億人のビッグデータを活用するマーケティングサービスを、欧米企業のブランドマーケターを中心に売り込みたいという背景がある。

また、タン氏をはじめ中国企業のエグゼクティブが登壇したセッションは「チャイナ・クリエイティビティ」をテーマにしていた。ここには、中国独自のクリエイティビティを理解する重要性や方法論を、中国企業群としてPRしたい背景がある。まさに、カンヌライオンズは、こうした広報目的に合致する場だというわけだ。

テンセント、ファーウェイなどが登壇
中国版のメッセンジャーアプリ「WeChat(微信)」を手がけるテンセント社のバイスプレジデント、スティーブン・チャン氏らが登壇した「Onward and Upward:Where Does China's Innovation Take Us Next?」(6月20日)。同日にはファーウェイによるプログラムも。

LDHのセッションがトップ5に

ダイナミックに動く中国企業の中、日本企業として気を吐いたのがLDHだ。チーフクリエイティブオフィサーであるEXILE HIRO、クリエイティブディレクターのVERBAL、世界的DJでLDH EUROPE CEOのAfrojack、Beats ElectronicsのPresidentであるLuke Wood氏が登壇したメインステージには、過去、オリバー・ストーン、サラ・ジェシカ・パーカー、ファレル・ウィリアムスなどの世界中の名だたるクリエイターやセレブリティが登壇してきた。

今年は全世界から1300以上の企画応募があり、メインステージに選ばれたのはわずか28セッション。さらには、「今年のトップ5セッション」としてAppleやFacebook、Amazonと並んでアナウンスされるほどだった。なぜ、これほどまでに欧米で一般的に知られないLDHに注目が集まったのか。

ひとつには、日本やそのクリエイティビティに大きな関心が寄せられているにもかかわらず、これまで日本企業による積極的な発信がなかったことがあげられる。もうひとつは、知られざるエンターテインメント企業であるLDHの「秘密」が明かされるという提案にしたことだ。

これこそがセッション内で初めて公開された、LDH独自の「スパイラルモデル」である。セッションでは、LDHがハイスピードでハイクオリティのものを生み出せる秘密が、このモデルに隠されていると解説された。

スパイラルモデルの独自性

LDHには、組織の中にTEAM GENESISというライブ・クリエイティブ・チームが存在し、280万人規模のライブ全体を統括している。リアルな場でフィードバックを受けて改善しながらエンターテインメントをつくり上げている。

一方、アーティスト育成機関として機能しているのがEXPG STUDIOと呼ばれる「学校」だ。そこには、将来のEXILEやJ Soul Brothers予備軍の子どもたちが日々レッスンに励んでいて、実際にライブにも出演する。5万人規模のライブを体験し、そこからフィードバックも受ける。

これまでLDHが築きあげてきたこうした既存の仕組みを、ソフトウェアの開発になぞらえて「スパイラルモデル」と命名したわけだ。スパイラルモデルとは、従来のしっかりとしたストラクチャーと納期を守ってつくられるトップダウン式の「ウォーターフォールモデル」と違い、使用設計とプロトタイピングを繰り返して開発を進め、トップダウンとボトムアップを同時に起こしていく手法。まさに、LDHが実践してきたことそのものである。

全世界からトップクリエイターやブランド責任者が集まるカンヌライオンズでは、単なる「実績紹介」や「会社紹介」は求められない(むしろ敬遠される)。学びがあり、再現性が見出せる「発想」や「しくみ」こそが関心の対象なのだ。

初公開されたLDHの「スパイラルモデル」
ライブなどのクリエイティブを生み出す機能と、子どもたち向けのレッスンなどでアーティストを育てる機能の両立。ここから新たなエンターテインメントが生まれている。

カンヌらしからぬ「ブラボー!」

45分にわたったセッションでは、オープニング映像に続き、VERBALからLDHが紹介された。「Love Dream Happiness」という、HIROから始まりLDHに根付くフィロソフィーを体現するように、つながってきた人たちの夢を実現する中で事業が自然と360ºに多角化してきたこと。ヨーロッパでも多くの才能を発掘し、夢の実現の手助けをしていくことなどが語られた。

LDHのガールズグループ「E-girls」を起用したヘッドホン「Beats solo」のキャンペーンがグローバルの中でも最も成功したキャンペーンだったと述べたLuke Wood氏の話に続き、セッションはいよいよ独自モデルのトピックへ。

専門家たちによって生み出されるクリエイティブ・プロデュースのスパイラルと、子どものころからのステージでの経験を通して、アーティストを育成する、アーティスト・ディベロップメントのスパイラルで成り立っている、独自の「スパイラルモデル」が、グラフィック映像とともに紹介された。

セッションのラストでは、LEDの光の演出とダンスによるパフォーマンスチームSAMURIZEがサプライズで登場。2000人の会場を圧倒し、最後にはカンヌらしからぬ「ブラボー!」という大歓声があがった。

パフォーマンス終了と同時に創設者であるHIROが登場し、「世界各国の新しい仲間との出会いで僕らのエンターテインメントを世界に発信していきたい」と感謝を述べ、会場は大きな拍手に包まれた。

(左から)Beats Electronicsのプレジデント・Luke Wood、VERBAL、EXILE HIRO、Afrojack、筆者とともに。「SAMURIZE」によるパフォーマンスで会場をわかせた。

カンヌという「場」に出る意義

今回のLDHセッションを企業広報の視点からとらえれば、こうなるだろう。発信したいステークホルダーは世界のクリエイティブ業界、ブランド企業、関連するメディアやインフルエンサー。メッセージは「LDHは実績のあるクリエイティブカンパニーであり、海外パートナーとの連携を積極的に進めていく」だ。

この目的からすれば、カンヌライオンズほどふさわしい場はない。プレスリリースを打ったり、記者会見を開いたりすることが企業広報だった時代はもう終わっている。とりわけグローバルに発信するのなら、まずはしかるべき「場」に出ていくことが大事で、すべてはそこからだ。

そう考えると、カンヌライオンズという「場」は、まだまだ日本企業や日本ブランドにとって活用すべき存在なのである。中国企業に負けてはいられない。LDHに続くチャレンジが来年のカンヌでも見られることを願う。ではまた来月!

ブルーカレント・ジャパン
代表取締役社長/戦略PRプランナー
本田哲也(ほんだ・てつや)

「世界でもっとも影響力のあるPRプロフェッショナル300人」にPRWeek誌によって選出された日本を代表するPR専門家。著作、国内外での講演実績多数。カンヌライオンズ2017PR部門審査員。最新刊に『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。

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