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広報担当者の事件簿

看板に寄りかかる大企業病 立場の「勘違い」が企業をリスクに晒す

佐々木政幸(アズソリューションズ 代表取締役社長)

    日本酒ラベルを世界に発信 地元で起業した二人の挑戦〈後編〉

    【あらすじ】
    高校の同級生だった京野泰彦と、日本酒ラベルのモチーフを使った商品を企画・販売する"株式会社キョウカラ"を立ち上げた唐沢陽介。起業から一年経っても取引先が見つからず、ダメ元で空港内の売店を管理する千歳空港販売サービスに営業の電話をかける。プレゼンの場で取締役の才田文吾から絶賛されたが……。

    誰かが振り向いてくれる

    一本の線を引いたような白い筋が真っ青な空に浮かんでいる。本州は梅雨まっただなかだろうが、北海道にはそれがない。空港の到着ゲートには、今日も大きな荷物をひいた団体客が列をつくっている。北海道民には梅雨のないことが日常でも、青森以南の人間にとってこの時期の北海道は日常を忘れさせてくれる癒しの場所なのかもしれない。

    新鮮な魚介類、みずみずしい野菜、ラーメンに寿司、そして数えきれない種類の土産物はどれも"北海道に行ってきました"と言いたくなる商品ばかりだ。団体客たちが帰るころには、あのキャリーケースがお土産でパンパンになるのだろう、とつい想像して「早くそのひとつになりたいな」唐沢陽介が呟く。空港内の物販店舗の運営を行う千歳空港販売サービスにプレゼンテーションをしてから三週間、その後、何の連絡もきていない。

    相手が忙しいのか、再度検討した結果、不採用だったのか。忙しいふりでもいいから前者であってほしい。「日本酒は、今やニューヨークじゃフランスワインと並んでセレブに人気の商品だぜ。ここに来る外国人だってきっと分かってくれるさ」「でも、俺らの商品は日本酒ではなく日本酒の"ラベル"だぞ」京野泰彦の言葉に陽介が弱気な言葉を吐く。株式会社キョウカラ。お互いの苗字と今日からスタートの意味を込めて二人で立ち上げた。

    「アイデアが素晴らしい」千歳空港販売サービスの取締役であり店舗運営の責任者でもある才田文吾は絶賛してくれた。「改めてご連絡をさせていただきます」あの目に嘘はなかったように思えたが。連絡がないという現実に陽介は押しつぶされそうだった。何を欲しているのか、何を買っているのか、観光客にまぎれてすべての店舗を回った。男ふたりで空港内を何周しただろうか。

    「ほめられて舞い上がった俺らが甘かったのかなあ」一階到着ゲートが見えるベンチソファに腰を沈ませた陽介が、また後ろ向きな言葉を吐く。「フーッ」と息を吐いて京野も腰を下ろし、ふくらはぎをこする。二人の身体が悲鳴を上げはじめていた。

    JR札幌駅から南へと続く広大な地下街。北海道最大の繁華街ススキノへ到る途中の大通公園では、オーロラタウンとポールタウンという二つの地下街が東西に伸び、重そうなキャリーバッグを引きずる観光客や若者で賑わいをみせている。「お土産にいかがですか」地下街を歩く人々に向けて、コルクボードに張ったキョウカラの商品「ポンシュラベル」を掲げながら陽介が大声を張り上げる。

    京野と二人三脚で五十種類のラベルをつくり上げた。製作から一年半が経とうとしている。何とかやりくりしてきた資金も底をつく寸前だった。前向きに考えてくれるはずだった千歳空港販売サービスから連絡はない。「所詮、サラリーマンがやってんだよ。責任取りたくねえし、ヒット商品出したからって給料上がるわけじゃねえしな」京野が吐く。

    プレゼンから一カ月後に電話をかけてみたが、「席を外しております」が三度続いた。くる"はず"のものがこない。焦燥感と無力感がふたりを支配する。

    顔さえ向けず足早に通り過ぎていく人々。スーツを纏い毎月決まった日に給料をもらい、仕事している"ふり"をして忙しいと言っておけば立派な社会人と呼ばれる世の中。実績のない若造二人の世話をする暇はないと言われているようだ。

    「次に進むしかない」。昨日、ススキノで焼き鳥を頬張りながら陽介と京野は確認しあった。「このまま終わってたまるか……」コルクボードを持ちながら陽介が呟く。売上がないから当然収入もなかった。最近はお互いのわずかな貯金を取り崩している状態である。

    だが、諦めるという考えはない。きっと誰かが振り向いてくれる。希望は捨てていない。この場所も札幌市にかけあってようやく借りた。京野が以前お世話になっていた酒蔵の社長に頼み込み、札幌市につないでもらった。「がんばれ」と一言だけ。二人の目をみた社長の言葉に力がこもっていた。相手にされないとか世の中のせいとか、言いわけをするのは簡単だが、誰も助けてはくれない。自分たちで這い上がるしかないことを陽介は実感していた …

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