『クローズアップ現代』(NHK)のキャスターを2016年に退任後、SDGsに関する取材・発信にも力を入れている国谷裕子氏。なぜ今SDGsが大切なのか、これまでの経験をもとに語っていただいた。
SDGsで統合的な課題解決を
─2015年9月に『クローズアップ現代』(NHK)で、SDGsが採択された「国連持続可能な開発サミット」を取材されています。SDGsとの出会いはこの時でしょうか。
そうですね。取材準備に入るまでは聞いたことがありませんでした。国連ではかなり前から議論が積み重ねられていましたが、私自身やNHKのレーダーには入っていなかったのです。
私は30年近く報道の現場にいて、様々な番組で課題解決の方向性を議論してきました。そのなかで、それぞれの課題が根っこのところでつながっているということを度々感じていました。経済、社会、環境など幅広い課題に統合的に取り組むSDGsは、まさに課題を根本から解決するための目標だったのです。
私は1993年から2016年まで『クローズアップ現代』のキャスターを務めました。バブル崩壊後の「失われた20年」とも言われる時代の中、「どうやったらより良い社会をつくれるのか」と模索してきました。
この20年で、人がより社会状況に翻弄されやすい時代になったと思います。番組でも、目の前の課題に対して改善策を提示すると、そこからより大きな問題が発生するというケースも出てきました。
例えば、2004年に労働者派遣法が改正され、派遣労働者の数が大幅に増加しました。しかし、2008年にリーマン・ショックが起きると大量の「派遣切り」が起き、年末には日比谷公園に「年越し派遣村」がつくられました。雇用のセーフティネットは構築されていなかったのです。
そして社会から置き去りにされた人々に対して、「自己責任」という声が浴びせられるような風潮も起きました。私はそういう空気に違和感を持っていました。人を大事にしながら、経済的にも成長できる方法はないのだろうか、もっと統合的な解決方法を探したいと思っていたころ、SDGsに出会うことになりました。
─SDGsが登場した背景には、「地球が持つ人類の生命維持機能が限界にきている」という危機感がありますね。
私は、SDGs策定の中心人物の一人、アミーナ・モハメッド氏(現国連副事務総長、策定当時は国連事務総長特別顧問)にインタビューや対談で何度かお話を伺いました …