ユニクロの従業員らの労働実態を明らかにした書籍『ユニクロ潜入一年』。前著『ユニクロ帝国の光と影』執筆時から取材を重ねてきた横田増生氏が、これまでの取材をベースに、持続可能な社会を実現するためのヒントを語る。
2016年12月3日は、忘れられない日になりました。この日、私は『週刊文春』(文藝春秋)でユニクロ潜入ルポを公開し、同社から解雇通知を突きつけられたのです。
日本を代表する成長企業でありながら、秘密主義を貫いているユニクロ。その実態を明らかにしたいという思いで、2015年10月から約1年間、アルバイトとして潜入しました。そこで聞こえてきたのは、報道でつくり上げられてきた"優良企業"のイメージの裏にある、現場の悲鳴でした。
「誰一人」取り残していないか
2015年に国連によって提唱されたSDGsは、現代社会が抱える課題を網羅した目標で、日本でも達成に向けたムーブメントが起きつつあることは素晴らしいことだと思います。
ただ、一度立ち止まって考えてほしいことがあります。SDGsの理念「誰一人取り残さない-No one will be left behind」を忘れてはいませんか。すべての従業員を取り残さない取り組みが本当にできているでしょうか。
ユニクロの持株会社のファーストリテイリングも、『FAST RETAILING SUSTAINABILITY REPORT 2017』の中で、サステナビリティ戦略とSDGsの目標のつながりを示しています。例えば、目標8の「働きがいも 経済成長も」では、「障害者や難民の雇用機会を拡大」などが挙げられています。
2001年から障害者の積極採用方針を打ち出したユニクロは「障害者雇用のフロントランナー」と呼ばれ、国内グループ会社の障害者雇用率が5.35%(2017年度)と日本の法定雇用率(2.0%)を大幅に超えています。
しかし2013年には、店長からいじめなどを受け、自主退職を迫られた男性がいました。それだけでも問題なのですが、さらに、男性の家族と店長などの話し合いの場で、同席した中堅社員が「障害者を教えるのも大変。雇用するのなら時給を上げてもらわないと割に合わない」と発言したんです。また、「全商品リサイクル活動」でも、キャンペーン期間にノルマを課し、従業員が子どもの通う保育園で不用品を集めてくるなどの時間外労働がありました。
これらのことからも分かるように、ユニクロは下の意見を吸い上げようという会社ではありません。とにかくリリースに書かれているのはきれいごとばかりでした。だから機動力があるのかもしれないのですが……。ユニクロに限らず、外からの評価と現場の従業員たちの労働実態にギャップがある企業は多いのではないでしょうか。
透明性と説明責任も課題に
SDGsを推進していくにあたって、経営の透明性や説明責任もこれまで以上に求められるでしょう。2009年、私はユニクロがサプライヤーの情報を何一つ公開していないことに疑問を持ち、独自調査を始めました。そして、中国の寧波の工場で、夜中の2時や3時まで働いている従業員の姿を目の当たりにしたのです。後の訴訟で争点になった話ですね(2014年勝訴)。
同社は、2017年2月にようやく主要取引先工場リストを公開しました。アクションではなく"リアクション"しかとらない企業だなという印象です。
SDGsは、中身を理解すれば誰もが共感する網羅的な目標です。ただ、トップダウンで「達成を目指しましょう」と言っただけでは多くの従業員を巻き込むことは難しいのが現状です。私が潜入取材で明らかにしてきたような"現場の苦悩"は人々の胸を打つものです。つまり、現場の人間が日々感じている問題意識に紐づける形で、SDGsに取り組む必要があるのではないでしょうか。
(談)