1月26日、コインチェックへの不正アクセスによる仮想通貨の大量流出が発覚した。ブロックチェーンの業界団体がその3日後に緊急説明会を開催した背景に迫る。

1月29日(月曜)の緊急説明会には多くのメディアが駆けつけ、会場内は緊張感が漂っていた。
「コインチェックは以前から問題のある会社だったんですか?」「当事者の方々が何も話してくれないので、何とか助けてくれないか」。データ記録の新技術であるブロックチェーンの普及と推進を行う「ブロックチェーン推進協会(BCCC)」事務局長 兼 広報部会長の長沼史宏氏(インフォテリア 広報・IR室 室長)は、1月26日(金曜)の夜、記者との懇親会の最中に電話が鳴りやまなくなった。
仮想通貨交換会社「コインチェック」が不正アクセスに遭い、利用者から預かっていた仮想通貨「NEM」約580億円相当が外部アドレスに送信されたことが判明したのだ。コインチェックはBCCCの会員ではないものの、NEMはブロックチェーン技術の上に成り立っているため、関連企業200社以上が加盟する業界団体を束ねる長沼氏の元には10分に1本の間隔でテレビや新聞の記者たちから事件の解説を求める問い合わせが相次いだ。
「悪質」イメージの払拭へ
1月29日(月曜)、BCCCはインフォテリア本社内のセミナールームで「NEM流出問題に関する緊急説明会」を実施。当日に案内状を送ったにもかかわらず、50媒体85人のメディアが出席した。会場は記者や協会関係者で埋め尽くされ、多くの立ち見が出るほどだった。
緊急説明会を開催した背景には、発生初日の記者対応の中でふと感じた疑問がある。「事件の本質が理解されていないな」。これだけ大きな事件になると、業界に詳しい経済部の記者だけでなく、予備知識のない社会部の記者も取材に入る。そのため、仮想通貨とブロックチェーンを同列で「悪質なもの」と捉えている記者が多かった。ブロックチェーンに関する否定的なコメントを引き出そうと誘導尋問をしてくる記者もいたという。
今回の事件は、ブロックチェーン技術の問題ではなく、コインチェックのセキュリティ対策の不備によって発生したもの。国内でブロックチェーン技術の普及推進に尽力してきた長沼氏は、記者が誤った認識をしたまま記事を書くことで、業界全体の進歩を停滞させるような世論が形成されたり誤った情報が拡がったりする事態を何としてでも避けたかった。
「どうしたら正確な記事を書いてくれるのだろう」。1月27、28日の土日の間に関係者と問い合わせ状況などを共有し、戦略を練った。そして、週明けに予定していたクローズドな定期勉強会の場を、「メディア向けの緊急説明会」に変更することを決定 …