日本全国で「自治体PR戦国時代」を迎えている現在。広報の基本と戦略に活かすヒントをこの分野の専門家がお届けします。
今回のポイント
(1)キラリと光る好事例を参考にする
(2)情報を削ぎ落とし、伝えたいことを明確化
(3)ウェブでは尖らせた情報を発信すべし
もうすぐ年度末。今年度施策の印刷物の納品やウェブサイトの公開が続く時期ではないでしょうか?今回はそんな制作物の担当になったときの心構えのひとつとして、ぜひ知っておきたいポイントをお話しします。
多すぎる印刷物・サイトの現実
観光マップにイラストと写真、さらにはゆるキャラまでを詰め込んだ、幕の内弁当のような印刷物に、お決まりの型を使いまわしているかのような移住者のインタビュー集。完成した印刷物やウェブサイトの数の多さもさることながら、気になるのはその内容です。
「なんでもかんでも詰め込むのではなく、ターゲットが必要な情報を選び、不要な情報は削ぎ落とせていますか?」「外注先であるプロの編集者にきちんと仕事を任せきれていますか?」と、この連載でも度々、同様の指摘をしてきました。雑多なツールが増えると、丁寧につくられた冊子やウェブサイトも多い中で埋もれてしまい、本当に狙いたい読者に届きづらくなってしまいます。
制作物過多の激戦状態で、それでもターゲットとなる読者へ届く制作物は何が違うのか。私自身が関わっている例も含めて紹介したいと思います。
いの一番にあげたいのは、やはりこれです。その編集・デザインのレベルの高さから、埋もれることなく、さらには配布当時、出版・編集プロダクション業界がざわついた冊子があります。それが、2006年に創刊された北九州市が発行するフリーペーパー『雲のうえ』です。
編集、カメラマン、デザイナー、すべてが一流。掲載内容も幕の内弁当ではなく、見事に編集された冊子です。
創刊号のテーマは「酒場」。角打ちまで登場する1冊です。当時、出版社で旅雑誌の編集をしていた私は「これが自治体でつくられる、しかも無料ですか……」と驚愕したのを今でも覚えています。
見事に情報を削ぎ落とし、伝えたいことを明確化。それは公平性重視よりも読者重視とも言うべき正しい編集方法で、あっぱれの一言でした。きっと北九州市の担当者も各方面と調整に奮闘したと思います。そのかいあって、状況は変わってきました。
というのも、この冊子の登場は自治体の制作物に大きな変化を生んだと言えます。大分県別府市の『旅手帖 beppu』、愛媛県松山市『暖暖松山』、秋田県『のんびり』など、あとを追うようにして、幕の内弁当に仕上げた冊子ではなく、地域の文化的な情報をきちっと編集して届けていく冊子が増えています。2014年には、渋谷ヒカリエのd47 MUSEUMにて「文化誌が街の意識を変える展」が行われたことからもお分かりになるかもしれません …