新市場開拓にあたり、ベンチャーの事業は逆風にさらされることも多い。近年、数々の炎上を招いたクラウドソーシング業界もそのひとつ。事業の柱を「フリーランス支援」へシフトしたランサーズの広報戦略を例に考える。
ランサーズは2017年4月、新成長戦略として「オープン・タレント・プラットフォーム構想」を発表した。「個人(タレント)と仕事をAIでマッチングさせ、生産性向上と誰もが自分らしく働ける社会の実現を目指す」というもので、クラウドソーシング単一の事業イメージからの脱却を狙いとする。
具体的には企業のマーケティング支援や個人と個人のスキルマッチングサービスなど、複数の事業展開をスタートさせた。同時に「副業やパラレルワーカーを含め、広義のフリーランスが活躍できる社会をつくる」という方向性を大きく打ち出している。
そんな同社の広報を担当するのが、2013年に入社した潮田沙弥氏だ。人材ベンチャー出身で、当初は採用と兼務だったが2014年から専任となった。
クラウドソーシングといえば、「炎上」とは切っても切れない業界。広報担当として、この数年で幾度も危機管理対応が求められる場面に直面してきた。
競合のクラウドワークスとの対立を煽るような騒動、「単価が安く稼げない」といったネガティブな評判、そして2016年末に発覚したディー・エヌ・エーのキュレーションサイト「WELQ」の問題。クラウドソーシングで記事が大量作成されていたことから、批判の矛先はランサーズにも及んだ。すぐさま社内に品質向上委員会を立ち上げ、24時間体制で対応に追われた時期もある。
経産省の研究会に役員が参加
一方で、2015年からクラウドソーシングではなく「フリーランス支援」を基軸とした事業への転換や、リブランディングに向けた準備を進めていた。もともと競合他社とは事業戦略が異なるものの、「クラウドソーシング業界」として一括りで扱われてしまう点も課題となっていた。そこで「フリーランス支援といえばランサーズ」というプレゼンスを確立し、想起を高めるための広報戦略が必要となった。
そのための土台となったのが、2015年から毎年実施してきた「フリーランス実態調査」だ。米国のフリーランス団体とクラウドソーシング企業「Upwork」が実施している調査内容をベースとし、日米のフリーランス実態の比較にも言及している …