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ベンチャー企業 広報の成功法則

リスクを避けたがる記者には 「権威」を利用してアピールせよ

松林 薫(ジャーナリスト)

記者がベンチャー企業を取り上げない理由とは。元日経記者が、記者視点から信用力を高めるためのヒントを解説。

記者時代、ベンチャー企業や中小企業の方と話すと、「日経は我々に冷たい。大企業ならつまらないネタでも記事になるのに、売り込んでもなかなか載せてくれない」という苦情を聞かされることが多かった。

残念ながら、これは否定しがたい事実である。現に私も、編集会議でベンチャー企業のネタがボツになる光景を何度も目にした。

越えるべき二つのハードル

ベンチャー企業を取り上げない主な理由は二つある。一つは「ニュース価値が低いと見なされやすい」ということだ。大企業の話題は、従業員や取引先など関係者が多いので、社会的に関心が高いテーマとして扱われる。ベンチャーがニュース価値で勝負するなら、世間があっと驚きそうな「斬新な商品」「面白い取り組み」などを売り込むしかない。

もう一つは信用力の問題だ。率直に言って、記者は自分がよく知らない会社を警戒する。ニュース価値の有無はいわば「第2のハードル」で、記者に信用されるという「第1のハードル」を越えない限り、その判断さえしてもらえない可能性が高いのである。

「自分たちは真面目に経営しているのに失礼な話だ」と思われるかもしれないが、記者の側にも事情がある。鵜呑みにすると記者生命を失いかねない「危険な」売り込みが、結構来るのだ。

昔、同僚だった科学技術部の記者から、「1~2年に1度は『永久機関を発明した』という売り込みを受ける」と聞いたことがある。理論上は絶対にありえないのだが、念のため取材には行くそうだ。

他にも、「生ごみを投入すると、ガソリンになって出てくるというインチキ機械を取材したことがある」といった類の経験談はよく聞く。この手の売り込みが来ると、勉強を兼ねて若手記者に裏取りをさせる。記者は性善説ではやっていけない職業だということを教えるためだ。

実は、売り込みをしてくる企業が、財務など経営上の問題を抱えているケースも多い。銀行から融資を引き出したり、投資家からお金を集めたりするために、報道を利用するのである。

企業側に悪意がなくても、記事で取り上げた直後に倒産することはある。上場企業と比べて財務内容が見えにくいので、記者はそういうリスクも抱えることになるのだ。こうなると、ベテラン記者になればなるほど警戒心が強まっていく。自分がしくじれば読者を巻き込むことになるので当然のことだ。

私は経済部時代、無名の企業を取り上げるときには経営者などへの取材だけでなく、最低でも信用調査会社や報道機関のデータベースは調べていたし、引っかかる点があれば周辺取材もしていた。それでも原稿で名前を挙げた企業について、社会部から「カルト教団のフロントの疑いが持たれている」という指摘を受けて、印刷の直前に削ったことがある …

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