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実践!プレスリリース道場

IoT導入でスマホ充電できるラゲージを投入 新たな市場を切り拓くリリース

井上岳久(井上戦略PRコンサルティング事務所・代表)

新聞や雑誌などのメディアに頻出の企業・商品のリリースについて、配信元企業に取材し、その広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウをPRコンサルタント・井上岳久氏が分析・解説します。

モノをインターネット化する「IoT」が様々な分野で進んでいます。そんな中、スーツケースメーカーのエースがラゲージ(旅行鞄)にIoTを導入して話題を呼んでいるので、広報を取材してきました。

商品は、同社が展開する「プロテカ」というブランドの中で機内持込最大容量モデルとして人気の「マックスパス」シリーズにIoTを導入した「マックスパス スマート」。2017年9月15日に販売を開始しました。

そもそもIoTを用いたラゲージはアメリカが先行しており、2014年に発売されています。しかし、IT関連のベンチャー企業が開発したため、「IT技術を見せたいという気持ちが強く、私たちからすると使い勝手のよくない部分が多々ありました。そこで、より快適に使えるよう機能性を追求したのが『マックスパス スマート』です」と同社マーケティング部PR・広報担当の山田絢音さんは説明します。この分野に取り組んだ日本のメーカーはエースが初めてでした。

開発が始まったのは2016年秋のこと。余分な機能は排除して、重視したのは(1)スマートフォンなどを充電できるモバイルバッテリーの搭載(2)スマホと連動して置き忘れや紛失を防ぐトラッキング機能です。

(1)については、多くの人が海外旅行の際に充電切れで困った経験をしていると思います。変圧器を忘れると大変なことになりますし、私が仕事で行ったインドの山奥などでは電気自体が通じていないことも多く、非常に困りました。最近は空港に充電器があっても、長蛇の列でなかなか番が回ってきません。ですが、ラゲージに搭載されたバッテリーがあれば、スマホなら約2回分のフル充電が可能な上、ホテルのコンセントからバッテリーを充電することもできます。

アメリカで発売されたものはコードリールの根元が弱かったり、防水性に乏しかったりした点を改善できたのは、専門メーカーならではです。

(2)は、クラウドGPSトラッカーを搭載し、スマホとラゲージが約30メートル離れると双方から通知音が鳴るというもの。万一、通信範囲外になっても、トラッカーのユーザーを通して追跡が可能だといいます。海外では日本と違い、置いてあるものは持っていくのが当たり前のような国もありますから、盗難防止にも役立つことでしょう。

ITに関する部分についてはソフトバンクが提供する商品化システムを利用し、専門会社に委ねたおかげでラゲージのポケット内でも発火しにくいバッテリーの開発に成功しました。

一方でエース社内では、ビジネスパーソンをターゲットとすることに決定。これは国内外への出張でモバイル機器の使用頻度が高く、充電の必要性が高い層だからです。そのため、大容量のマックスパスシリーズをベースにすることを決めました。

この商品には(1)と(2)のほかにも4つほどセールスポイントがありますが、中でも私がよいと思ったのはモバイル関連の機能は本体外側につくられた「フロントオープンポケット」に集約できること。アメリカ製の先行商品はバッテリーがラゲージの内側にあるため、空港での手荷物検査の際にいちいち開けて荷物を取り出しているうちに床にお店を広げてしまう……なんてことも起こり得ます。そうならないための気配りがエースの製品らしいところです。

同社はこうしたIoT導入のラゲージである「スマートラゲージ」の開発に本格着手。「ラゲージは長年にわたり、さほど大きな進化のない商品でした。しかし、IoTの導入はガラケーがスマホに変化したのと同じくらい画期的と捉え、ラゲージ自体の信頼性と実用性が高いスマートラゲージの開発を目指しました」と山田さん。スーツケースの大手メーカーとして、これから新しい市場を開拓していく意気込みが感じられます。

9月の正式発売に先駆け8月7日からはソフトバンクが運営するインターネットサイト内での予約販売の受付を開始。その日に合わせてニュースリリースを配信しました。ここからはそのリリースを見ながら話を進めましょう。

まず(ポイント1)タイトルにはニュースバリューのあるキーワードが並んでいて目を引きます。「IoT」といえば感度の高い人たちが今、飛びつく話題のひとつですし、おなじみの「日本初」はマスコミ好きのする言葉。さらに「国産」というのも、日本企業を応援したい気持ちを呼び覚まします。

先述の通り、すでにアメリカで先行商品があったものを日本ならではの技術で改良したものですが、言葉の選び方によってこれだけ商品価値を高めることができるわけです。表現がよく練られているなと思います。



全体的な運びは、(ポイント2)2枚目で特長をダイジェストで示し、3~4枚目で詳しく説明するシンプルな構成。私が勧める王道の2段階構成です。2枚目を見ただけで全体像を把握でき、それ以上知りたい人は先へ進むというのが、リリースには一番適した流れといえます。



(ポイント3)特長を説明する際も、優先順位が明確なのが、読む側にとっては助かります。特に重要なのは最初に説明した2点であって、ほか4点はやや優先度は下がります。順番だけでなくスペースの大きさでもそのことが伝わる配分になっています …

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