名画から最新作まで、映画に数多く登場する広報・メディアの仕事。1本の作品から、気になるセリフと名シーンをピックアップします。
今月の1本『最後の恋のはじめ方』 | |
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公開 | 2005年 |
制作国 | アメリカ |
監督 | アンディ・テナント |
出演 | ウィル・スミス、エヴァ・メンデス、ケヴィン・ジェームズ、アンバー・ヴァレッタ、ジュリー・アン・エメリー、マイケル・ラパポート |
この間、ある経営者と会った。「自分を有名にしてほしい」というオーダーだったが、その場で断った。その人が傲慢で、世の中の人々から好かれないと察したからだ。
面会中ふと、この映画を思い出した。恋愛映画だが、これは広報担当者ならぜひとも見るべき映画だ。成功している広報には共通点がある。それはコミュニケーションの上手さである。ウィル・スミス演じるアレックス・ヒッチは、デートドクターである。つまり恋を実らせるためのコンサルタントだ。「広報じゃないじゃん!」と怒られそうだが、広報と同じだとボクは思っている。何人かの広報のプロにDVDをプレゼントしたことがあるが、皆さんに共感いただいた。
この映画でも金持ちの嫌な依頼主が登場し、それをヒッチが断るシーンがある。先日のボクと同じだ。広報の世界でも傲慢な企業や経営者はうまくいかないことは、この雑誌の読者ならご存じのことだと思う。
この映画では、ヒッチのいろいろな恋愛を成就させる方法論が登場する。ボクは以前から広報と恋愛は同じだと思っている。だから『プレスリリースはラブレター』というタイトルの本を書いた。主人公は次々とモテない男性の恋愛を成就させてゆく。そのテクニックは広報も同じだ。大切なのは相手に「興味を持たせる」ということだ。
常に、メディアの視線の先にいること。すると毎日のようにいろんな依頼がメディアから来るようになる。「面白い社長はいないか?」「この分野のプロフェッショナルはいないか?」「このインタビューに答えてくれる消費者を知らないか?」などなど。
この映画のメインは、資産管理会社に勤める、ボクよりも巨漢のアルバート・ブレナマンが憧れる金持ちの美人であるアレグラ・コールへのアタックだ。テクニック満載で、それが次第に相手の心をつかんでゆく。そしてヒッチ自身も、エヴァ・メンデス演じるジャーナリストのサラに惹かれてゆく。その過程でテクニックを超える本質が見えてくる。それは広報も同じだ。本質が伝わることが何よりも大切だ。
ボクは、各社の広報に「とにかくメディアに会え」「ご飯を食べろ」とアドバイスするのだが、劇中にこんな台詞がある。「人間のコミュニケーション方法の60%は言葉じゃない、ボディランゲージだ。30%は声の調子。つまり人が交わすコミュニケーションのうち90%は言葉じゃないってこと」。名言だ。
リリースの送付や配信サービスの活用だけで成功すると思っている広報が大半だ。中には「人が嫌い」という広報もいる。当然うまくいかない。恋愛も広報も心が通じ合うことが何よりも大切だ。それが一番の戦略だと思う。さあ、言葉を超えよう。
文/放送作家・PRコンサルタント 野呂エイシロウ(のろ・えいしろう)1967年愛知県生まれ。『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』で放送作家デビュー。97年コンサルタントとしての活動を開始。ソフトバンク、ライフネット生命保険、シャープ、ビズリーチなどのプロジェクトに携わる。近著に『超一流の「気くばり」』(光文社)など。 |