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実践!プレスリリース道場

ハワイや台湾で入社式!? 企業PRと採用にも直結したトリドールのリリース

井上岳久(井上戦略PRコンサルティング事務所・代表)

新聞や雑誌などのメディアに頻出の企業・商品のリリースについて、配信元企業に取材し、その広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウをPRコンサルタント・井上岳久氏が分析・解説します。

丸亀製麺で知られるトリドール(神戸市)が2016年、2017年と続けて、海外で実施した入社式のニュースリリースを配信しています。なかなか入社式のリリース例もない上に、海外。このユニークなリリースに隠されたPR戦略を取材してきました。

2016年の入社式はハワイ。大卒者67人と高卒者4人、計71人を引率しての一大イベントで、費用も相当な額が想像されます。これだけなら今どき稀に見るバブリーな会社に見えますが、丸亀製麺は海外展開も積極的です。約1000店舗のうち最高売上を誇るのがワイキキ店で、店舗前に大行列ができるほどなのです。

ちょっと意外に思いましたが、「ハワイは何を食べても高いので有名ですが、当社は日本と変わらない値段で提供しているのが人気の理由ではないでしょうか。天ぷらなどを足しても客単価は平均800~1000円程度。お客さまの半分以上は外国人で、中には『フランチャイズ店舗を持ちたい』と言うお客さまもいらっしゃいました」と経営企画室広報グループ課長の深堀俊輔さん。

繁盛店を体験したり、現地のほかの人気店を視察したりといった新人研修も兼ねているため、ハワイでの入社式が実現したのです。入社式のあとはチームで現地調査をし、レポートを提出するなど3日ほどかけてチームビルディング研修を実施したそうです。

続いて2017年の入社式は台湾です。こちらは大卒89人と高卒108人、計197人とスケールも大幅にアップ。台湾も、3店が丸亀製麺の売上トップ5にランクインする人気国です。台湾はハワイのように飲食店が軒並み高いということはありませんが、親日家が多く、ジャパニーズフードに対する憧れのような気持ちもあって行列をつくるのかもしれません。2018年は香港・マカオでの入社式を予定しています。

狙いは企業PRと人材確保

さて、これだけの費用をかけるのはPR効果も期待できるからにほかなりません。同社は関西の企業であり、特に関東では「丸亀製麺は知っているけどトリドールは知らない」という人が多いとのこと。一見派手な話題を流すことで社名を認識してもらうコーポレートPRの意味合いがひとつ。そして最大の狙いは、優秀な人材を確保するためのリクルーティング効果です。

就職活動が完全な売り手市場の現在、サービス業は深刻な人材不足に悩んでいて、私の知る企業でも労働力が足りず閉店に追い込まれた店があるほどです。そんな中、成長企業のトリドールでは順調に店舗数も増えていて、現状約1000店舗のところ、2025年には6000店舗を目標に掲げるほど。人材確保は至上命題なのです。

一般的に人材不足の解消には機械化と外国人の登用を行います。けれど丸亀製麺の場合、人がつくっているところを見せるオープンな厨房が魅力のひとつであり、機械化はまったく考えていません。現場での外国人登用は行いますが、アルバイトより中長期的な人材の育成を優先しているため、正社員の採用に力を入れているのです。

2016年については、前年4月にハワイ開催を決定。4月末にリリースを配信するとともに、新聞に「入社式はハワイでやります。」という大胆な一面広告を打ち、世間の耳目を集めました。もちろん、本格化する就職活動期を意識してのことです。年末からは各メディアに対する下準備や、リリースに載せる写真の絵づくりなども開始。

当初はハワイのビーチにリクルートスーツ姿の新入社員が勢ぞろいする案も挙がりましたが、粟田貴也代表取締役社長の「暑苦しいだろう」という意見で、現地色満載の華やかなものになりました。衣装もすべて会社が用意し、使用後はプレゼントしたそうで、いい思い出になったことでしょう。これが4月初旬に露出し、また翌年のリクルーティング効果につながっていくというサイクルです。

面白さと堅実さのバランス

ではここからは、実際のリリースを見て話を進めていきましょう。まず(ポイント1)タイトルやリードには、繁盛店の視察研修など、海外で入社式をする理由を要所要所に載せています。

ハワイという派手な話題で注目を浴びるとともに、深堀さんの言葉を借りれば「ただ遊びに行っている会社に見えないように、面白おかしく表現しながらも、ちゃんとしたビジョンを持っている企業だと伝わることに最も配慮しました」とのこと。面白さと堅実さ、その絶妙なバランスを保っています。

本文には「2025年に世界6000店舗、売上5000億円達成」「来年は200名の新卒採用を目標」「世界の外食企業トップ10入り」など、目標値を明確に掲げているのも特徴です。これは数字がないと経済系のメディアでは取り上げづらいと考えてのこと。しかし一方で、目標を達成できなかったら恥ずかしいと宣言を回避したがる企業もあります …

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