日本全国で「自治体PR戦国時代」を迎えている現在。広報の基本と戦略に活かすヒントをこの分野の専門家がお届けします。
今回のポイント
(1)「誰に何を伝えるか」と受け皿の整理を
(2)芸能人起用の際はPR意図と絡めた演出を
(3)タイムリーな話題に乗る手もあり
自治体でも多く行われる、メディアの取材誘致を目的とした「PRイベント」。その組み立て方を、今号と次号の2回にわたりご紹介します。ここで言うPRイベントとは、大きく分けて(1)メディアを対象としたプレスイベント(2)メディアとともに一般の方も参加できるイベントの2種類です。
第6回で取り上げた「メディア向け説明会」もPRイベントの一種ですが、メディアとの関係構築や、ゆくゆくの記事化につながる"きっかけ"提供を目的としたものと定義します。「記者会見」は別物として、今回は触れません。
地域課題を解決したイベント例
2014年、岐阜県関市は、売上高日本一を誇る「刃物」とは対照的に、観光資源である「円空仏」の認知度低迷に悩んでいました。特に、観光ターゲットである東海圏の若年層の認知度は2割弱。
そこで、若年層への訴求に欠かせないウェブやソーシャルメディアで支持されるイベントを企画する中、円空仏の現代的解釈としてスナック菓子に仏を彫る「うまい仏(ぶつ)」を制作する岐阜県出身の現代美術作家・河地貢士氏を発見し協力を要請。市主催で現代アート展を開催することとなりました。
会場は、東海圏における情報発信の起点となり、メディアが取材に来やすい名古屋駅直結の商業施設「ミッドランドスクエア」を選定。こうして2015年1月の3日間、「うまい仏」の作品展示と、来場客が参加できる「うまい仏」制作ワークショップを実施したのです。メディアに情報提供した結果、Yahoo!のトップページで写真付き記事が掲載されたほか、多くのウェブやSNSで拡散されました。
また、初日のプレス内覧会は夕方のニュースで放送されるよう午前11時に設定。レポーターに「うまい仏」制作体験をしてもらい、テレビでも視聴者が行きたくなるようなイベントとして紹介されました。
名古屋のテレビ局・新聞社など多数のメディアが取材に訪れ、最終的には3日間で約1万3000人の来場者数を記録し、関市への観光誘客にもつながりました。この例からも分かるように、戦略的に組み立てることができればPRイベントは認知拡大に最適な施策です。しかし、狙うべきメディアを間違ったり、その後の受け皿がなかったりすると十分な効果は見込めません。
そのためにも、まず「何を実現するために、どんなメディアで取り上げてほしいから、このイベントを行うのか」という点を、しっかり整理することが重要です。関市の成功要因は、ターゲット層を東海圏の若者に定め、彼らに円空仏を知ってもらえるようウェブやSNSでの拡散を狙い、さらに東海圏のテレビ局や新聞社などに取材されやすい工夫を施したことにあります。
「なぜ、関市が『うまい仏』のイベントを?」と疑問に思うポイントをつくることで、市と円空仏との関わりや市内の博物館「円空館」の紹介も実現しました。イベントとして消費されるだけでなく、来場者向けチラシを制作し、関市へのアクセス方法や「円空仏」の魅力を伝え、現地に足を運んでもらう仕掛けもつくりました …