米国を中心に世界中に広まっているフェイクニュースの問題。企業としての公式情報を扱う広報担当者にとっても他人事ではない。世界のメディア動向に詳しい筆者がその危険性と対応策を解説する。
「スターバックス・ドリーマー・デー」。夏の盛りの8月2日、米国のTwitterなどのソーシャルメディアでそんなキャンペーンが始まった。
「不法滞在の米国人なら、スターバックスのあらゆるメニューが40%オフに。8月11日実施」
スターバックスのロゴとフラペチーノが写り込んだキャンペーン画像は、瞬く間に広がった。
「ドリーマー」とは、幼い頃に親に連れられて米国に渡った不法移民の若者たちのことを指す。米国内に約80万人いるとされる。オバマ前政権が導入した、「ドリーマー」を強制退去の対象としない移民救済制度について、トランプ政権は9月に撤廃を表明した。8月は、その成り行きに関心が集まっていた時期だ。
だが、このキャンペーンは、まったくのフェイクニュースだった。計画したのは英語圏の匿名掲示板「4chan」のユーザーたち。だまされた「ドリーマー」たちが8月11日にスターバックスに集まったところで、不法移民取り締まりを管轄する移民税関捜査局に通報する──そんなシナリオを描いていたのだ。
フェイクニュースとは何か
2016年の米大統領選での拡散で世界的に注目されたフェイクニュース。だがこの問題は、政治の世界に限らず、ビジネスにも直接的な影響を及ぼす。
スターバックスを舞台としたフェイクニュースは、ほんの一例だ。フェイクニュースとは何なのか。どのような仕組みで広がり、どのような被害を与えるのか。そして、企業の現場では、どんな対処法があるのか。順を追って見ていきたい。
舞台はソーシャルメディア
オーストラリアのマッコーリー英語辞典は2016年の言葉として「フェイクニュース」を選び、こう定義している。「政治目的や、ウェブサイトへのアクセスを増やすために、サイトから配信される偽情報やデマ。ソーシャルメディアによって拡散される間違った情報」。
また、英国のコリンズ英語辞典も11月2日、2017年の言葉としてやはり「フェイクニュース」を選んだと発表。「ニュース報道にみせかけて拡散される、虚偽の、しばしばセンセーショナルな情報」と定義した。
フェイクニュースという言葉自体は、19世紀ごろまでさかのぼるようだ。広義にとらえればコリンズの定義だが、2016年来の話題としては、マッコーリーの定義の方が適切だろう。端的に言えば「ソーシャルメディアで広がるデマ」だ。100%のデマから、一部に事実が含まれるもの、内容は事実だが文脈を置きかえたものなど、その類型は多種多様だ。
政治的目的と経済的目的
フェイクニュースは、発信者の目的によって大きく2つに分類できる。政治的な目的と、経済的な目的だ。スターバックスの例では、政治的な背景が見て取れる。同社のハワード・シュルツ会長は、2016年の米大統領選では民主党候補のヒラリー・クリントン氏を支持。スターバックスとしても「ドリーマー」を支援していた。一方で、発信者たちは、反移民、親トランプ政権の立ち位置にあったことがうかがえる ...