10月以降に相次いで発覚した、神戸製鋼グループの品質データ改ざん問題。11月10日、経産省に再発防止策の報告書を提出したが未だ全容は解明されていない。本件を取材してきた経済部の記者が匿名で、一連の広報対応について問題点を明かす。
問題の経緯
10月8日
神戸製鋼所がアルミ・銅製品の一部で検査証明書のデータ改ざんを行っていたことを発表。さらに13日、鉄粉事業やグループ会社において新たに9製品のデータ書き換えがあったことを発表し、記者会見で川崎博也会長兼社長が謝罪した。
不正が発覚した製品の出荷先は500社以上。26日には子会社の一部製品のJIS認証が取り消されたことを公表し、安全性への信頼を失う結果に。
「多数の皆さまに多大なるご迷惑をおかけしました」。険しい表情を崩さないまま体を折る。整えられた白髪の頭頂部が記者に向けられる。激しく浴びせられる無数のフラッシュ。10月から幾度となく目の当たりにした光景だ。その様子からは、ある種の慣れすら感じられた。
アルミニウム製品などのデータ改ざん問題に揺れる神戸製鋼所が11月10日午後5時から、東京都千代田区の朝日生命大手町ビルで開いた記者会見冒頭の様子だ。川崎博也会長兼社長は顧客企業や株主らに謝罪し、5秒程度頭を下げた。
この日の会見では、一連の問題に関して神戸製鋼が実施した原因分析と再発防止策が公表されることから、会場には100人を優に超える記者が集まった。多くの国内経済記者にとって、2017年秋のメイン・イシューとなった神戸製鋼のデータ改ざん問題の大きな節目で、注目度の高さがうかがえた。
鉄鋼業界再編の予兆か?
問題の概要は次の通りだ。神戸製鋼の国内外17拠点で検査証明書のデータを書き換えたり、顧客と約束した測定を実施しなかったりする不正が繰り返されていた。部門別ではアルミ・銅事業部門で最も多く起こっていたが、鉄鋼部門や子会社などにも広がっている。さらに期間も長期間にわたり、「数十年前から」(元社員)という証言もあるほどで、グループ全体の内部体制が問われる問題といえる。
神戸製鋼は収益偏重の経営や品質に関して工場外部からのけん制機能がほとんど働かない状態になっていたことなどが理由だと分析し、製品の試験検査データの書き換えを不可能にするシステムの導入や本社に品質監査部を設けるといった対策を打ち出した。現在は外部の弁護士で構成する調査委員会が調査を引き継いでおり、経営陣の関与の有無も含めた最終報告を12月末までに出す予定になっている。
8月末にアルミ・銅関連の4事業所での不正行為を把握した神戸製鋼が初めて問題を公表したのは10月8日だった。1カ月以上も公表が遅れたこともあって、報道機関の姿勢は厳しいもので取材が過熱。未公表の不正が次々と明るみに出て、後手に回る形で記者会見を開き追認というパターンが繰り返された。
同時期に日産自動車の無資格検査問題が発覚していたにもかかわらず神戸製鋼の報道の方が盛り上がりを見せたが、その背景には、過去に総会屋への利益供与事件やばい煙の測定データ改ざんといった不正を繰り返してきた組織風土がある。同業大手の新日鉄住金やJFEホールディングスに業績で水をあけられ、主力取引銀行のみずほ銀行内でも「課題案件」に位置付けられるほど経営基盤が脆弱で、経営危機や業界再編につながるのではないかという報道機関の予測もあると考えられる。
「鬼門」だった会見資料
11月10日の記者会見に戻ろう。この日の会見スタートは午後5時だったが、資料は30分前の午後4時半に適時開示があり、会場でも配布された。これまでの会見では部数が足りなかったり、内容が不十分なため刷り直しに時間がかかったりすることが多く、記者のいらだちを高めていた。いわば資料は「鬼門」となっていたので、この日は「進歩したな」と一瞬思ったが、一通りめくった時点で「説明する気があるのか」という感想に変わった。
資料はテキストベースの報告書のみで、パワーポイントなどを活用して概要を整理した資料がなかったからだ。会見でも川崎会長兼社長が文章を省略しつつ、時折詰まりながら読み上げるというメリハリのない形での説明で終わってしまった。
記者会見を開いて何かを説明するというのは、報道機関の後ろにいる情報の受け手に理解を求めたいからだろう。この場合だと、顧客企業や株主、当該材料を用いた製品を使用している消費者らが当然含まれる。そうした人たちに説明を向けているのだという意識があれば、どういう手法を採ることで理解を促せるかに思いが至るはずだが、そうはならなかった。今回の一件で「神戸製鋼は説明が下手」だという意識をいっそう強めた ...