近年、発覚した不祥事の多くは、風通しの悪い組織風土に起因している。その中でもグループ報や社内報を発行し、会社の方針や現場の声を伝えていた。これまで編集部が取材した東芝、神戸製鋼のグループ報・社内報からひも解く。
東芝「トップの素顔伝えたい」
東芝の社内報『TOSHIBA LIFE』を制作する広報・IR室へ取材に訪れたのは、2015年2月。「不適切な会計があった」と発表したのが同年5月で、わずか3カ月後には同社を取り巻く事態は急展開を迎えたことになる。
同誌は1948年に創刊した。当時、広報・IR室の5人が隔月で編集・制作にあたっており、ボリュームは24~32ページ。東芝と一部のグループ会社6万2000人に配信していた。紙媒体も制作しているが、2014年からウェブでの配信を中心に切り替えているとのことだった。
担当者は「当社の社内報は事業方針の周知とグループで働く社員の一体感醸成を役割として担っています」と話し、2013年6月にトップに就いた田中久雄社長(当時)のプライベートにも迫るインタビュー企画なども紹介してくれた。4年ごとに社長が交代するなか、トップの方針や素顔を伝える誌面づくりにもこだわっていた様子がうかがえた。
なお当時の取材記事は2015年5月号(4月1日発売)の広報会議本誌に掲載しており、奇しくも連載企画「社内報のつくり方」リニューアルの初回を飾っていた。現在もデジタル版で公開しており、読むことができる。
JIS法違反で原稿がボツに!
一方、編集部が神戸製鋼のグループ報『KOBELCO Newsnet(コベルコ・ニュースネット)』を取材したのは2016年5月のこと。しかし当時の取材内容は、広報会議本誌に掲載されることはなかった。同年6月に関連会社でJIS法違反が発覚し、掲載を取りやめたからだ。
「200社超のグループ各社の連携を強化する」という趣旨で発行しているグループ報だけに、グループ内で問題が起きているとあれば「優れた事例」として誌面で扱うことはできない。レイアウトも完成していたが、同様の問題が続く可能性もあるので掲載は見送りたい。それが編集部としての判断だった(2016年8月号で「社内報のつくり方」コーナーが休載となっているのは、このためである)。
同誌は神戸製鋼の秘書広報部が監修、グループ会社のコベルコビジネスサポートが編集という両輪体制で制作されている。未掲載のため詳説は避けるが、全国の事業所を紹介したり、川崎博也会長兼社長がグループの中期経営計画を語ったりと「社風や事業戦略を理解してもらう」「現場主義にこだわる」といった方針を打ち出していた。
東芝と同様、神戸製鋼の社内報の歴史も長い。グループ報としては2005年に発刊したが、神戸製鋼所単独の社内報『神鋼タイムス』は約60年続いており社員にも定着していたという。
両者とも社内広報に一定のコストと時間、人員を割いているにもかかわらず、これほど重大な不祥事が続けば現場は報われない。一体、何のための社内報だったのか。広報機能は形ばかりでいいと考えていたのだろうか。新旧の経営陣の責任は重い。