ブログや掲示板、ソーシャルメディアを起点とする炎上やトラブルへの対応について事例から学びます。
9月下旬、男子生徒が男性教師の背中や足を蹴り、教師の胸ぐらをつかむ様子などが映った動画がTwitter上に投稿された。動画には他の生徒たちの笑い声なども入っており、教師は痛々しいほど無抵抗だった。動画は教室内にいた別の生徒が撮影し、LINEに投稿したものを別の高校の生徒がTwitterに投稿したもので、瞬く間にネット上で拡散した。
事件があったのは福岡市にある私立博多高校。1年生の授業中、授業に関係のない映画をタブレット端末で見ていた生徒を教師が何度か注意したが生徒がやめなかったため、教師が取り上げた。生徒がこれに腹を立て暴行に及んだと報じられている。
疑問視された学校の対応
当初ネットでは、暴力を振るった生徒本人や周りで笑う生徒たちを問題視する声が目立った。ところが博多高校が校長名で出したお詫び文書によって、今度は学校への批判が急増した。
文書にはこうあった。「本校では、これまでも道徳教育を推進し、(中略)SNSの利用につきましても、その危険性を指導してまいりました。にもかかわらず、今回の件を防ぐことが出来なかったことは残念でなりません」「今後は、改めてITモラルを持たせる教育、生徒の心が健全に育つよう教育の充実を図り、また教育の連携やフォローアップ等、教員を育てる体制等、学校組織をしっかり作ってまいります」。
これに対して、まず暴力よりもSNS利用やITモラルが問題だとする「感覚のズレ」に、多くの人が驚きを露わにした。まるで校内の情報が外に出たことが問題だと考えているようだと。
さらに時を経ずして、まったく予想されなかった別の問題が指摘された。このお詫び文書の内容が、全く別の問題で以前騒動があった浦和学院高校が公開した謝罪文の大部分をコピペしたものだったのだ。どれほど酷似しているかを検証するネット記事も出た。
ネットに過敏、日常に鈍感か
おそらく学校では、ネット情報をもとにした経験したことのない世間の反応に右往左往したのだろう。生徒の個人情報も拡散したことで、ネット上で何らかのメッセージを発信する必要を感じて「適切な表現」を求めて謝罪文をネット検索したとも考えられる。そこで見つけたのが生徒の差別的な内容のTwitter投稿に関して浦和学院高校が謝罪した2年前の文書だった、ということなのかもしれない。ただ学校は、ネットメディアの取材に対して「他校様の文書を剽窃したという事実はございません」と答えている。
一方で、教室内で起きたことの異常性や、暴行を受けた教師に対してのケア、こうした状況で教師としてはどう対応するのが同校の方針なのかといった認識を示す情報が伝わってこない。
ホームページを見ると、校訓は「誠実・忍耐・努力」と書かれている。大切なのは、リアルでもネットでも、内部・外部のどちらから見ても、こうした方針が貫かれていることだろう。
社会情報大学院大学 客員教授・ビーンスター 代表取締役米コロンビア大院(国際広報)卒。国連機関、ソニーなどでの広報経験を経て独立、ビーンスターを設立。中小企業から国会までを舞台に幅広くコミュニケーションのプロジェクトに取り組む。2017年4月から社会情報大学院大学客員教授。著書はシリーズ50万部のベストセラー『頭のいい説明「すぐできる」コツ』(三笠書房)など多数。 |