新聞や雑誌などのメディアに頻出の企業・商品のリリースについて、配信元企業に取材し、その広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウをPRコンサルタント・井上岳久氏が分析・解説します。
リリースの中でも、新しい事物を世の中に伝え、広めようとする"啓蒙リリース"はあまり見かけることがなく、この連載でもこれまで取り上げたことがなかったように思います。
今回はそんな珍しい一例として、TSUTAYAの「親子の日」啓蒙リリースを紹介したいと思います。
そもそも皆さんは「親子の日」をご存じでしょうか。5月には「子どもの日」と「母の日」、6月には「父の日」があります。それに続けて、最もベーシックな人間関係である"親と子"の関係を見つめ直そうという意図で、写真家のブルース・オズボーンさんと妻でプロデューサーの井上佳子さんが2003年に提唱したものです。毎年7月の第4日曜日が該当します。
広報主導のキャンペーン
TSUTAYAでは昨年夏、「親子でいくTSUTAYA」というキャンペーンを実施し、映画ソフトの販売やレンタルの促進を図りました。その一環として、同社の常務取締役とオズボーンさんがコラボ企画を行いました。それを発展させた形で、2017年は広報主導で「親から子へ"伝えたい想い"を本で贈ろう」というキャンペーンを実施することになりました。
「実は、昨年のイベントはちょうど『ポケモンGO』の上陸日と重なり、パブリシティの観点で課題が残りました。今年はそうした課題を見直してのリベンジ企画です」と同社広報ユニット長の多田大介さんは明かします。
面白いのは、広報が主体となってキャンペーンを実施しているところで、同社にはそうした自由な社風があるようです。広報は企画部や商品開発部などから案件が降りてくるもの、という意識が強い中で、頼もしい限りです。
TSUTAYAでは、ちょうど2017年を書店事業強化の年と位置づけていたため、広報のメンバーは「書店」と「親子」で何ができるかを考えました。最初はオズボーンさんが写真家であることから、写真と本を結びつけて顧客の写真集をつくろうとするなど、企画決定までには紆余曲折があったといいます。
スペインでは、親しい人に本を贈る「サン・ジョルディの日」という習慣があることから、「同じように子から親に本を贈ってみては」というアイデアが挙がりました。広報ユニットの東 佑香さんは「親に感謝するなら、すでに母の日も父の日もある」と感じ、反対に親から子どもへ本を贈る企画を思いつきます。
子どもが幼いころは親が絵本を買い与えたりしますが、成長すると自然と機会がなくなっていきます。けれど成人した子どもに対しても、親が伝えたいことを本に託して贈ってもいいのではないか、というわけです。
購入したら書籍にかけられるよう、親子の日を記念したオリジナルブックカバー22万部を用意し、店頭ではメッセージを書くことのできるメッセージしおり4万部を配布することに決めました。これも「直接ブックカバーにメッセージを書こう」「でも電車の中で読むのは恥ずかしい」「ではカバーの裏側に書いたら?」など意見を積み重ね、この形に収束したそうです。
難しかったのは売り場展開。「夏休みの課題用ならオススメ図書の選書もしやすいですが、親から子の場合はジャンルも多岐にわたる上、十人十色で決められない。でも提案してこそのTSUTAYAなので、親に本を贈られたエピソードを書店員から集めて紹介することにしました」と多田さん。
広報戦略としては、事前の6月12日から店頭にチラシを置き、16日には親子の日に協賛する毎日新聞に記事が載り、7月3日にリリースを配信。7月18日には、第2弾リリースとして「子どもを持つ親800名に聞いた"本を贈る習慣"」の調査リリースを発表。200~300通ほど配信し、毎日新聞、朝日新聞などに掲載されました。
またTOKYO MXの情報番組『5時に夢中!』では出演者である新潮社の中瀬ゆかり出版部部長が、「誰かとの関係性があると本を読むきっかけになる」とアピールしました ...