名画から最新作まで、映画に数多く登場する広報・メディアの仕事。1本の作品から、気になるセリフと名シーンをピックアップします。
今月の1本『女神の見えざる手』 | |
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公開 | 10月20日(金)TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー |
製作国 | フランス=アメリカ合作 |
監督 | ジョン・マッデン |
出演 | ジェシカ・チャステイン、マーク・ストロング、ググ・バサ=ロー、ジョン・リスゴー |
「野呂君、極秘で頼みがある」とiPhoneに連絡をいただいたのは今年の夏。非常に難易度の高い仕事の依頼だ。そこから48時間は電話の嵐。メールやSNSは危険である。
隠密行動は僕も好きだ。痕跡を残さず、次の次を考えて先を突っ走る。そんなことをやっていると、アドレナリンが最高に出まくる。敵もどんどん先へ行く。勝てるのか?時々不安になるが、iPhoneで電話をかけまくる。勝利の女神はボクに微笑むのだろうか?
これまでにも、このコーナーに情報を操作するプロが幾度も登場している。大統領のスキャンダルをもみ消す『ワグ・ザ・ドッグ』のコンラッド(ロバート・デ・ニーロ)。トランプ大統領の参謀のロジャー・ストーン。そして今回は、10月20日から公開中の映画『女神の見えざる手』の主人公エリザベス・スローン。プロのロビイストである。
アメリカには3万人ものロビイストがいて、政党や議員に働きかけている。もちろんマスコミも巧みに操り、世論も動かす。日本でも幾人ものロビイストが活躍中と噂に聞く。
今回の物語の中心にあるのは銃の規制法案。現実社会でも米国ではよく問題になる話だ。エリザベスは、銃の規制を推進する団体のロビー活動を行う。私見だが、ロビイストと広報マンは非常によく似ている。どちらもマスコミを通じて世論を動かす。ただし、どちらかと言うと経済活動に関わる広報に対し、政治家の票集めをしたり法案を動かしたりするのはロビイストの仕事である。
「ロビー活動は予見すること」というエリザベスの言葉は、まさに広報そのもの。名台詞だと思う。広報も予見が大切だ。露出した瞬間の視聴者やライバル企業の動き、消費活動、その後のマスコミの動き。さらに次の展開を考えていくのが仕事である。
この物語はフィクションだが、エリザベスの先の読み方は尋常ではない。ボクの予見の甘さを反省させられる映画だ。少々ブームになったりヒットランキングに載ったりして喜んでいるような甘ちゃんだ。もっと先を動かそうと思う。時代をつくらねば。
映画の小道具も絶妙だ。肌身離さず手にしているのはBlackBerry。メールの機密が漏れないというのが売りの端末だ。使われているPCはアップル。レクサスも登場し、エンドロールではロゴが目立っていた。プロダクトプレイスメント的にも何かあるのだろうか。
ラストは本当にドキドキした。邦題は「女神」とある。果たして幸運の女神は、エリザベスに微笑むのか?
さて、冒頭のボクの広報戦は、3勝1敗だった。だが、その1敗は非常に大きな負けだった。一人の人生が闇に葬られた。ライバルの戦略に完敗だった。女神は微笑まなかった。超苦笑。
文/放送作家・PRコンサルタント 野呂エイシロウ(のろ・えいしろう)1967年愛知県生まれ。『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』で放送作家デビュー。97年コンサルタントとしての活動を開始。ソフトバンク、ライフネット生命保険、シャープ、ビズリーチなどのプロジェクトに携わる。近著に『超一流の「気くばり」』(光文社)など。 |